李林甫(読み)りりんぽ(英語表記)Lǐ Lín fǔ

改訂新版 世界大百科事典 「李林甫」の意味・わかりやすい解説

李林甫 (りりんぽ)
Lǐ Lín fǔ
生没年:?-752

中国,唐玄宗朝の宰相。唐室の流れをくみ,千牛直長から刑部侍郎,吏部侍郎などを歴任,734年(開元22)に礼部尚書・同中書門下三品となった。〈口に蜜あり,腹に剣あり〉とその奸佞(かんねい)ぶりを評されるが,学問,教養は乏しかったものの機を見るに敏かつ実務に優れた能吏であり,玄宗の信任を深めた。このため学者肌の張九齢らとあわず,陥穽(かんせい)をめぐらせて張九齢を追い,みずからがかわって中書令として実権を握った。この争いには,貴族出身官僚と科挙出身官僚との対立が背景にあったともいわれる。反対勢力の排斥につとめるあまり,節度使に異民族出身者を抜擢し,結果的に安史の乱を招くことになった。死後,彼に含むところのあった楊国忠突厥(とつくつ)の将軍阿布思とむすび謀反を企てたふしがあると誣告(ぶこく)し,官爵を剝奪し庶人の身分におとし,子孫は嶺南に配流された。彼のユニークな生涯は唐の無名氏の小説《李林甫外伝》の素材となった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「李林甫」の意味・わかりやすい解説

李林甫
りりんぽ
Li Lin-fu

[生]?
[没]天宝11(752)
中国,唐中期の宰相。唐の宗室出身で諸官を歴任したが,「口に蜜あり,腹に剣あり」と評された。開元 22 (734) 年宰相となると,政敵を次々に退ける一方,玄宗寵姫の武恵妃や寵臣の宦官高力士に取入って玄宗の気に入りとなり,権勢をふるった。権勢維持のため,大軍を率いる節度使に異民族を登用した。安禄山もその一人で,これが安史の乱遠因になった。没後楊国忠に,生前に突厥と結んで謀反の意ありとされ,官爵を剥奪され,子供は流罪となった。

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世界大百科事典(旧版)内の李林甫の言及

【玄宗】より

…唐末五代の王仁裕の《開元天宝遺事》が伝える華麗な宮廷生活,盛唐の詩人たちがうたいあげる長安の栄華にかくれて,農民の窮乏は深刻となり財政は迫しつつあった。過渡期の不安を象徴するかのように,中央では貴族出身の官僚と新興勢力である科挙出身官僚との対立が激しく,また募兵制の採用により各地に配置された節度使,とりわけ貴族出身の宰相李林甫が保身のために利用した異民族出身の節度使たちが勢力を拡大していた。その最強のものが平廬,范陽,河東の3節度使を兼ねた安禄山である。…

【唐六典】より

…30巻。唐の玄宗勅撰,李林甫ら注。738年(開元26)に完成したが,およそ50年間は行用されなかったらしい。…

【李思訓】より

…中国,唐の画家。宗室貴族に属し,玄宗朝の宰相李林甫の伯父に当たる。高宗のとき江都令となったが,則天武后の武周革命に入ると,官を棄て隠れた。…

※「李林甫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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