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松浦理英子 まつうら りえこ

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デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説

松浦理英子 まつうら-りえこ

1958- 昭和後期-平成時代の小説家。
昭和33年8月7日生まれ。青山学院大在学中の昭和53年「葬儀の日」で文学界新人賞。平成5年「親指Pの修業時代」で女流文学賞。20年,長編「犬身」で読売文学賞。寡作で知られる。愛媛県出身。著作はほかに「ナチュラル・ウーマン」「裏ヴァージョン」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

松浦理英子
まつうらりえこ
(1958― )

小説家。愛媛県生まれ。青山学院大学文学部仏文科卒業。在学中の1978年(昭和53)、19歳のときに書き上げたという「葬儀の日」で第47回『文学界』新人賞を受賞。第一作品集『葬儀の日』(1980)には、葬式に「泣き屋」「笑い屋」として雇われる「私」と「あなた」の関係性を対の極致として描いた表題作をはじめ、「乾く夏」「肥満体恐怖症」が収録されており、続く『セバスチャン』(1981)では、女、男どちらのジェンダーにも同一化しえない女性を中心に、彼女が執着する女性との間に結ぶ特殊な「主人と奴隷ごっこ」や、身体的な障害を自己の際だった魅力へと変じて生きる少年との関係性が編みなされている。単行本未収録作品「火のリズム」(1979)もあわせ、初期作品群においては、正常と異常、男性と女性、加害と被害などの、二元化された構造の定型が逆転され、あるいは無効化されるような位相が描出されており、そこでは、他者と向き合った際に現出する差異そのものへのまなざしが構成されている。
 80年代半ばには、『文芸』に掲載された「いちばん長い午後」「微熱休暇」に、書き下ろしの「ナチュラル・ウーマン」を加えて連作短篇集『ナチュラル・ウーマン』(1987)が刊行される。視点人物「容子」と、3人の女性たちとの間に立ち現れる性愛を描く筆致には、読む者の身体をひりつかせるような皮膚感覚的な恋愛感触が宿り、相手に届きたいと願う思いが言葉や身体、感情によってさえ阻害されてしまうという、いたたまれぬような状況が生々しく描き出されるとともに、女性対女性という関係性の展開される作品世界においては、女性表象をめぐる既存の枠組みが攪乱されている。中上健次は、「そのまま放っておけば母に易々なってしまうし、また母の庇護を受ける子にもなってしまう存在」としての「ホモ・セクシュアル=ナチュラル・ウーマン」の描写が「母への陵辱」、すなわち母性なるものの対象化につながると指摘した上で、「日本文学という手ばなしの母性礼賛の土壌、さらに小さ神礼賛の土壌に、松浦理英子が突き出したナチュラル・ウーマンの意味は大きい」と絶賛している(第1回三島由紀夫賞選評)。
 90年代初め、『文芸』に連載され、単行本化された長篇『親指Pの修業時代』(1993。女流文学賞受賞)は、発表当初から注目を集め、大きな話題を呼んだ。ある日突然、午睡から目覚めると右足の親指がペニスになっていたという女性主人公が、親指ペニスをもったことによってもたらされる種々の体験を経て、性に関するイデオロギーを相対化し、新たな性愛観を獲得してゆくといった過程が、ビルドゥングスロマン(教養小説)の形式に拠りながら記述されている。射精をせず、生殖能力をもたない親指ペニスの受動的性質は、クリトリスと類似し、親和したものとして設定されており、性器中心主義が批判されている。99年(平成11)から『ちくま』に連載された『裏ヴァージョン』(2000)は、『親指P』以降、7年ぶりの作品として反響を呼んだ。作品世界においては、小説の形式がさまざまに引用されており、そこには短編小説の読者と書き手として言葉を闘わせ「共作共演のゲーム」を愉しむ女性同士の性交なき交情が紡ぎ出され、言葉によって交わることの不可能性と可能性とが同時に指し示されている。他の著作として、エッセイ集『優しい去勢のために』(1994)、『ポケット・フェティッシュ』(1994)、笙野頼子との対談集『おカルトお毒味定食』(1994)、『現代語訳樋口一葉「たけくらべ」』(1996)、『おぼれる人生相談』(1998)などがある。[内藤千珠子]
『『現代語訳樋口一葉「たけくらべ」』(1996・河出書房新社) ▽『裏ヴァージョン』(2000・筑摩書房) ▽『葬儀の日』『セバスチャン』『ナチュラル・ウーマン』『親指Pの修業時代』上下(河出文庫) ▽『優しい去勢のために』(ちくま文庫) ▽『おぼれる人生相談』(角川文庫) ▽『ポケット・フェティッシュ』(白水Uブックス) ▽笙野頼子・松浦理英子著『おカルトお毒味定食』(河出文庫) ▽トーキングヘッズ編集室編『松浦理英子とPセンスな愛の美学』(1995・書苑新社)』

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