たけくらべ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「たけくらべ」の意味・わかりやすい解説

たけくらべ

樋口一葉(ひぐちいちよう)作の中編小説。1895年(明治28)1月~96年1月『文学界』断続連載。96年4月『文芸倶楽部(くらぶ)』一括掲載。吉原近くの大音寺前に住む思春期まぢかの子供たちが主人公で、8月20日千束(せんぞく)神社の祭りでの表町組(美登利(みどり)、正太郎、三五郎ら)と横町組(信如(しんにょ)、長吉ら)とのけんかから始まり、このとき「子供中間(なかま)の女王様(にょおうさま)」美登利は乱暴者長吉に恥ずかしめられたが、長吉の後ろには信如がいると誤解し、以後、彼女と信如とは疎遠になる。美登利の姉は遊女で、彼女もやがてその「跡継ぎ」を約束されており、信如は生ぐさ和尚(おしょう)の息子で、彼も出家になる運命である。美登利は、自分でも無意識だったが、実は信如に心ひかれていた。やがて彼女は初経(初潮)を迎え、女らしくなったが、「或(あ)る霜の朝」彼女の家の門に「水仙の造り花」が差し入れられた。信如が僧となる日だった。精妙な心理小説で哀愁がただよう不朽の名作。森鴎外(おうがい)、幸田露伴(ろはん)も絶賛した。

[岡 保生]

『『樋口一葉全集1』(1974・筑摩書房)』『『にごりえ・たけくらべ』(新潮文庫)』『『全集 樋口一葉2』(1979・小学館)』

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改訂新版 世界大百科事典 「たけくらべ」の意味・わかりやすい解説

たけくらべ

樋口一葉短編小説。1895-96年(明治28-29)《文学界》に連載。一葉の代表作であるばかりでなく,明治文学の中でも,もっとも完成度の高い短編の一つ。下谷竜泉寺で駄菓子屋を開いていたころの一葉の見聞を素材に,思春期にさしかかった少年少女の愛の目ざめを,吉原遊廓周辺の風物と四季の移りかわりを背景に描いた作品で,遊女となる運命が予定されているおきゃんな美少女美登利と,竜華寺跡取りになる内気な少年信如との淡い恋を中心に,ムラのマツリがマチのマツリ酉の市(とりのいち)に圧倒されていく都市化現象の文脈の中に,子どもたちのよろこびとかなしみ,そしてまたアソビの相が浮きぼりにされている。
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百科事典マイペディア 「たけくらべ」の意味・わかりやすい解説

たけくらべ

樋口一葉の短編小説。1895年―1896年《文学界》に発表,1896年《文芸倶楽部》に補正再録。森鴎外,幸田露伴,斎藤緑雨に激賞された。大黒屋の美登利,竜華寺の信如,田中屋の正太郎など,吉原の花街近くに住んで思春期にさしかかろうとする少年少女の姿を,雅俗折衷体文章抒情的に描く。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「たけくらべ」の意味・わかりやすい解説

たけくらべ

樋口一葉の小説。 1895~96年発表。吉原遊郭という特殊な環境の風物と人情をちりばめながら,少年少女の美しくも哀れな性の目ざめを描き,写実と抒情のとけあうみごとな世界を築いている。

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とっさの日本語便利帳 「たけくらべ」の解説

『たけくらべ』

樋口一葉
廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝に燈火うつる三階の騒ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行来にはかり知られぬ全盛をうらなひて、大音寺前と名は仏くさけれど、さりとは陽気の町と住みたる人の申き\(一八九五~九六)

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デジタル大辞泉プラス 「たけくらべ」の解説

たけくらべ

1955年公開の日本映画。監督:五所平之助、原作:樋口一葉、脚本:八住利雄。出演:美空ひばり、中村是好、吉川満子、岸恵子、北原隆、佐々木孝丸、山田五十鈴ほか。第6回ブルーリボン賞助演女優賞(山田五十鈴)受賞。

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旺文社日本史事典 三訂版 「たけくらべ」の解説

たけくらべ

明治中期,樋口一葉の短編小説
1895〜96年に発表。吉原遊廓に近い東京下谷の思春期の子供たちの姿と微妙な心理を,美登利と信如を中心に,叙情的に流麗に描写した作品。

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世界大百科事典(旧版)内のたけくらべの言及

【三人冗語】より

…〈頭取(とうどり)〉(鷗外)による作品紹介に続いて,〈ひいき〉〈さし出〉などの変名の人物が批評する形式をとる,最初の匿名座談会形式の文芸時評。当時の批評界の権威として,多くの作品を辛辣に批判したなかで,樋口一葉の《たけくらべ》に対する批評(第4号)は,この小説を絶賛し,彼女の文名を一躍高めたことで有名である。なおこの批評欄は第8号から,上記3人に,依田学海,饗庭篁村(あえばこうそん),森田思軒,尾崎紅葉らを加えて〈雲中語(うんちゆうご)〉に発展し,評壇に君臨した。…

※「たけくらべ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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