均一な厚みの板状につくられたガラス製品の総称。着色したもの、表面コーティングをしたもの、曲面のもの、凹凸の模様のあるもの、2枚以上重ねたもの、強化処理したものなど多くの種類があり、建築物や交通機関の窓、ドアや間仕切り、ショーケース、温室、鏡などに広く使われている。組成的にはソーダ石灰ガラス(ソーダライムガラス)の一種。
[境野照雄・伊藤節郎]
現在では、ほとんどがフロート法によって製造されている。原料は、珪砂(けいさ)、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)、石灰石、苦灰石、長石、ボウ硝(硫酸ナトリウム)等で、これにカレット(ガラスくず)を混ぜたものである。この原料を容量1000トン以上の溶融炉に入れ1500℃以上の高温で連続的に溶かして均質な融液とした後、溶融金属を満たしたフロートバスにその融液を導き、溶融金属表面上に帯状に浮かべ徐々に冷却しながら連続的に徐冷炉へ引き出し、切断して板ガラスとする。溶融金属には融点の低いスズを用い、この表面に浮かぶ半融状態の板状ガラスは徐冷炉に達するまでに高い平滑度と平面性をもつようになるので、研摩することなしに高級な鏡にも利用できる。網(線)入り板ガラスは、溶融炉から流出した融液を1対のローラーで板状に成形するとき、同時に金属網(線)を挿入して連続的に製造し、また1対のうち片方に模様を刻んだローラーを使えば型板ガラスができる。ローラーに触れたガラス表面の平滑度は悪いので、必要に応じ研摩して製品とする。
[境野照雄・伊藤節郎]
もっとも多く使われるのは無地の板ガラスで、2ミリメートルから25ミリメートルの厚さのものが生産されているが、さらに薄いものも厚いものもつくることができる。通常、ガラスは無色透明であるが、不純物の鉄の着色によりわずかに青緑色を呈する。一方、意図的に着色剤をガラス中に溶かし込み各種の着色ガラスがつくられている。網(線)入り板ガラスは割れてもたやすくは崩れ落ちず、防火性があり、また防犯、耐震上有利なので、ビルディングなどに用途が広い。複層ガラスは、2枚以上の板ガラスを希ガスや真空の薄い層を挟んで密封したもので、断熱効果があるため冷房や暖房の省エネルギーの目的などに適しており、また遮音効果も高い。溝型ガラスはプロフィリットともよばれ、浅いコの字型の柱状で、これをかみ合わせて採光式の壁面とする。溶融ガラスをローラーで成形するので半透明であり、線入りのものも生産されている。色焼き付けガラスはセラミック顔料を片面に塗布して焼き付けたもので、着色の種類が多く、室内装飾や自動車用後部ガラスの装飾などに用いられる。また、導電性ガラスは、ガラス表面に透明な導電性薄膜をコーティングする、合わせガラスの中間層に細い発熱線を埋め込む、ガラス表面に導電性物質を線状に焼き付ける、などの加工によって通電・発熱の機能をもたせたもので、エレクトロニクス素子の基板、太陽電池基板、建築物や車両の結露・凍結防止用窓ガラスに利用されている。以前は大部分の鏡には厚板ガラスを研摩して用いたが、現在はフロート法による板ガラスをそのまま利用し、これに銀めっき、その上に保護のため銅めっきを施して鏡面にしている。これらのほか、板ガラスの表面にサンドブラスト法(高圧空気と一緒に珪砂(サンド)や金属粉などの研磨剤を吹き付けて表層を除去する方法)や腐食性酸などで模様を刻みつける加工ガラスもある。
[境野照雄・伊藤節郎]
建築物や自動車の窓用のほか,鏡用などに最も大量に生産されている板状のガラス。耐候性にすぐれ,安定に製造できる必要性から,次のような組成がとられている。SiO2(71~73%),Na2O(12~15%),CaO(8~10%),MgO(1.5~3.5%),Al2O3(1.5%)。主原料のケイ砂,ソーダ灰,石灰石に,溶融促進剤,清澄剤などが配合され,それにカレット(くずガラス)が混合され,タンク窯と呼ばれる溶解炉に供給される。溶融温度は最高1550℃程度であり,熱源は重油が主体で,ほかにガスが使用されることもある。タンク窯には容量3500tという大きなものもあり,このような窯では生産量も680~700t/日に達し,いったん操業に入ると7年間あまり連続運転される。タンク窯に投入された原料は,最低でも11~12時間滞留した後,板状に成形される。成形法には,フルコール法(図1),コルバーン法,ピッツバーグ法などの引上げ法があり,以前にはこれらの方法が主力であったが,最近建設される装置はフロート法あるいはロール法であり,徐々にこれらの方法に切り替えられている。フロート法は,イギリスのピルキントンPilkington Bros.社によって開発された方式で,図2に示すように,溶融ガラスを還元雰囲気に保たれた溶融スズに浮かべることによってガラスの両面,すなわち一面は自由表面,他の一面は溶融スズに接触している面を平滑化するものであって,旧来の磨き板ガラスに近い良質のものが生産される。ロール法(図3)は1918年ドイツで開発された方式で,型板ガラスや,網入り・線入りの板ガラスの生産に使用される。板状に成形されたガラスは,そのまま冷却すると割れることがあるので,徐冷炉でなまされた後,切断されて製品になる。金属の網や線入りガラスの両面を研磨剤でみがいたガラスも最近数多く使用されている。板ガラスは使用目的に応じて二次加工されることも多い。自動車用としては次のようなガラスが製造されている。フロート法によって製造した板ガラスをそれぞれの車種に応じた形状に切断した後,熱処理により曲面に成形した後,空気を両面に吹き付けて急冷し表面に圧縮応力層をつくったものが風冷強化ガラスである。2枚の板ガラスの間にポリビニルブチラールフィルムをはさみ込んだものが合せガラスであり,高級車・輸出用車のフロントガラスに使用されている。複層ガラスは,2枚の板ガラスを6~12mmの間隔を保って周辺をシールし,その間に乾燥空気と水分吸着剤を封入したもので,結露しないこと,断熱性が高いことなどの特徴をもっている。表面処理によって熱線反射膜を付けたもの,電熱用ペーストを焼き付けたものなどもある。
執筆者:安井 至
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板状のガラス.融解ガラスから引き上げ成形したもの(普通板ガラス)と,一対のローラーの間を通して成形したものとがある.前者には,フルコール法,ピッツバーグ法,コルバーン法があり,磨き板ガラス用素材,型板ガラス,網入りガラスは後者のローラー法で成形される.また,フロート法によれば磨き板と同級のものが成形できる.板ガラスをもとにして,合わせガラス,強化ガラス,複層ガラスなどがつくられる.組成的にはソーダ石灰ガラスの一種である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…しかし,硫化物,セレン化物などのカルコゲナイド系ガラスや,最近では,フッ化物,塩化物のガラスなども実用化をめざして研究が行われている。有機ガラス
【ガラスの組成設計】
ガラスの基本的組成はNa2O‐CaO‐SiO2系であって,板ガラス,瓶ガラスなどに使用されている。この組成を基礎として,使用目的に応じた組成が開発され使用されてきた。…
…ガラス,ガラス製品製造業の出荷額は窯業,土石製造業の約15%を占め,製品形態別に,板ガラス工業,ガラス製品工業,ガラス繊維工業の三つに大別される。
[板ガラス工業]
大規模な溶融窯で昼夜連続操業を行う典型的な装置産業で,このため欧米各国とも企業数は少なく,日本でも,販売シェア順で旭硝子(あさひガラス),日本板硝子,セントラル硝子(1959進出)の3社寡占状態になっている。…
…17世紀になってからはフランスやイギリスでも生産された。 板ガラスの発明はローマ時代になってからで,ポンペイでは青銅のわくに板ガラスを入れて窓にした遺例が見いだされる。宮殿や公共建築に窓があけられても,それは厚い壁を貫くたんなる開口部にすぎなかった。…
※「板ガラス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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