植民市(読み)しょくみんし

精選版 日本国語大辞典 「植民市」の意味・読み・例文・類語

しょくみん‐し【植民市】

  1. 〘 名詞 〙 古代の都市国家が植民の目的であらたに建設した都市。母国に従属しないで自治独立の都市国家であった。フェニキアの建設したカルタゴが有名。ギリシア人は黒海や地中海の沿岸にとりわけ多くの植民市(アポイキア)を建設。また、ローマ人の植民市(コロニア)は、軍事目的から建設されたものが多い。

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改訂新版 世界大百科事典 「植民市」の意味・わかりやすい解説

植民市 (しょくみんし)

主として古代ギリシア人,ローマ人の植民活動によって建設された都市の総称。ギリシア語ではアポイキアapoikia,ラテン語ではコロニアcoloniaという。西洋の古代文明は主として都市の文明であったが,とりわけギリシアではポリスと呼ばれる多数の都市国家を基盤として文明が盛衰した。ポリスは前8世紀ころにギリシア本土や小アジア西岸で成立するが,そのうち特に活発なポリスは以後200年間に多くの植民市を建設する。植民市からさらに植民市が建設されることもあった。かくして黒海沿岸,トラキア南岸,リビア北岸,イタリア南部,シチリア東・南岸,フランス南岸などに多数の植民市が分布した。この植民活動の原因としては,本土の土地の貧しさ,人口過剰,内部での抗争などが考えられるが,それがポリス成立期の直後に集中していることからみて,本国で政治的・経済的な権利を確保できなかった人々が,新天地で市民権を獲得しようとした運動であることが推測される。これらの植民市は母市からは完全に独立し,入植者は土地を分配されて,そこの市民となる。

 植民の場所の選択は,世界の中心と考えられていたデルフォイの神託に頼ることが多かったが,同地には各地の情報が届いていたはずであるから,適切な託宣を出していたものと思われる。その結果,地中海や黒海の沿岸の農耕適地や後背地との交通に便利な河口などにギリシア人の植民市が分布し,前6世紀ころから海上貿易が活発となる。植民市の側からの輸出品として最も重要なのは,小麦,奴隷,木材などであり,その見返りにギリシア諸市からオリーブ油,ブドウ酒,陶器などが輸出された。例えば,南ロシアの農耕スキタイ人の生産する小麦がアテナイなどへ運ばれており,スキタイ人自身が奴隷としても輸入されていた。古代ギリシア文明の繁栄は,このような広範な貿易関係に依存していた。

 前5世紀および前4世紀前半には,上記のものとは別種の植民市(クレルキアklērouchia)が主としてアテナイによって建設された。軍事的に重要な地点を占領した場合に,貧しい市民をそこへ兵士として移住させて土地(クレーロス)を分配し,その方面におけるアテナイ支配権の拠点とするものである。植民者はアテナイ市民権を保持するので,アテナイの覇権の直接的担い手である。それだけにペロポネソス戦争でのアテナイの敗北にともない,多くのものが廃止された。古典期には植民市の建設は沿岸地域に限られていたが,ヘレニズム時代にはギリシア風の都市がエジプトやアジアの内陸部にも建設された。これも軍事上の目的のためにギリシア人やマケドニア人の兵士にクレーロスを分配して定住させたものであるが,しだいに自治のためにギリシア風の制度が整えられ,ギリシア文化普及にも大きく貢献した。

 古代ローマの植民市(コロニア)も,軍事的目的のために,さらには貧民や老兵の救済のために建設された。ラティウムの海岸での建設に始まり,共和政末期からは遠方の属州にも設けられ,属州支配の拠点となった。その多くはローマ文化普及の拠点ともなり,また今日まで重要な都市として存続しているものも多い。このように西洋の古代世界では植民市の建設は重大な意味をもっていたが,そのうちでも前8世紀から約200年にわたる間のギリシア人の植民市建設は,独特のものであったことが知られる。
植民地
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「植民市」の意味・わかりやすい解説

植民市
しょくみんし

古代ギリシア、ローマで、植民者が建設した共同体。ギリシア人は、紀元前14~前13世紀に小アジア西部に植民市を建て、キプロス島、シリア、南イタリアに貿易拠点を設け、前12~前10世紀にはエーゲ海の島々、小アジア西岸、キプロス島などに大規模な植民を行ったが、前750~前550年ごろ、さらにそれらを上回る植民活動を展開した。植民市(アポイキアapoikia)を建設するポリスは母市(メトロポリス)とよばれ、しばしばとくにデルフォイの神託を伺って、植民市の位置と植民の指導者を選定した。植民の主要な目的は、母市において土地を失った市民の新たな農地獲得にあったが、貿易基地の建設を目的とする場合もあった。植民市が多く建設されたのは、現地に有力な政治勢力がない地域か、ギリシアと気候風土の似た地域であった。カルキスエレトリアミレトスコリント、メガラ、テラ、フォカイアなどの母市が、南イタリア、シチリア島、エーゲ海北部、ダーダネルス海峡、マルマラ海、黒海、北西ギリシア、アフリカ北岸東部、フランスとスペイン南岸などに集中して植民市を建設した。それらのなかには、ビザンティオン(イスタンブール)、ネアポリス(ナポリ)、マッサリア(マルセイユ)など、現在も大都市として繁栄しているものがある。植民市は、方言、祭儀、制度などさまざまな面で母市と結び付いていたが、政治的には独立のポリスとなり、この点がローマの植民市(コロニアcoloniaとよばれる)との最大の違いであった。しかし、アテネが前6世紀末から前4世紀までデロス同盟の離反ポリスの土地などに建設したクレルキアklerouchiaとよばれる植民市は、独立のポリスではなく、農民兼守備兵としての植民者はアテネの市民権を保持した。また、マケドニアのアレクサンドロス大王とヘレニズム諸王国、とくにシリア王国の王たちは、主として軍事目的から多くの植民市を建設したが、それらは東方におけるギリシア文化の中心となった。エジプトのアレクサンドリアが最大の代表である。

 なお、ローマの植民市は、前4世紀以降、守備隊配置、植民者への農地賦与などの目的で設けられ、植民者がローマ市民権をもち続けるローマ市民植民市と、植民者が新しい植民市の市民となるラテン人植民市との2形態があったが、後者もローマとは密接な関係を保持した。

[清永昭次]

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百科事典マイペディア 「植民市」の意味・わかりやすい解説

植民市【しょくみんし】

古代地中海世界で植民者が建設した都市の総称。自治独立の形をとる場合が多かった。著名なものはギリシアの例で,特に,前750年―前550年ころに黒海〜地中海沿岸に多く建設された。現在のイスタンブール,ナポリ,マルセイユなどは,当時のギリシア植民市に起源し,また,イタリア半島南端にはマグナ・グラエキアと呼ばれる植民市群もあった。古代フェニキアの植民市カルタゴなどは母国滅亡後も繁栄を続けた。ローマでは前4世紀以後,国境警備と海外属領統治を目的に建設され,ローマ文化伝播に貢献したが,自立的なものではなかった。
→関連項目植民地

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「植民市」の解説

植民市(しょくみんし)
apoikia[ギリシア],colonia[ラテン]

古代ギリシア・ローマ世界の拡大は,植民市(アポイキア,コロニア)建設を中核に行われた。前8世紀中葉から約200年にわたる,ギリシア人の地中海・黒海沿岸への多数の植民は,多く土地所有を目的とする新しい独立のポリスの建設の形で進められた。前5~前4世紀のアテネの植民は,主として市民権を保持したままでの入植であった。ヘレニズム時代にオリエントにできた多数のギリシア都市は,軍事的・経済的要地に立てられ,ヘレニズム文化の中核をなしたが,入植者が政治的共同体をつくるものではなかった。ローマでは前4世紀以後,国境付近に市民たる屯田兵を入植させ,ローマの勢力拡大につれて,この種の植民市がイタリア半島以外にも多数つくられてローマ文化普及の担い手となった。

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旺文社世界史事典 三訂版 「植民市」の解説

植民市
しょくみんし
apoikia (ギリシア)

古代ギリシア人・ローマ人の植民活動によって建設された都市の総称
ギリシアでは前8〜前6世紀,人口増加による土地・食糧不足,貴族相互または平民を巻き込んだ政治的対立,商業的関心の高まりなどの要因により植民活動が始まった。ギリシア人の植民市は,政治的には母市から完全に独立しており,植民の範囲は,黒海沿岸・南イタリア・イベリア半島沿岸・アフリカ北岸など,地中海全域におよび,ギリシア文化普及の拠点となった。代表的な植民市に,ビザンティオン(現イスタンブル),マッサリア(現マルセイユ),ネアポリス(現ナポリ)などがある。ローマでは軍事目的や貧民救済のために植民市の建設が始まり,やがて属州支配の拠点となり,ローマ文化普及の拠点ともなった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「植民市」の意味・わかりやすい解説

植民市[古代ギリシア・ローマ]
しょくみんし[こだいギリシア・ローマ]


植民市[古代ギリシャ・ローマ]
しょくみんし[こだいギリシャ・ローマ]

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