改訂新版 世界大百科事典 「機密保護」の意味・わかりやすい解説
機密保護 (きみつほご)
秘密は,その帰属主体により,個人の秘密のほか,企業秘密,国家秘密などに区別することができるが,このうち,外交秘密や軍事秘密,そのほかの行政上の秘密(これらのうち重要な秘密を機密という)の保護のあり方は,現代の社会において,さまざまな問題を含んでいる。それは,これらの機密をもらした場合に刑罰を適用することによって保護すれば,行政上の情報が国民に伝達されることを妨げる結果となり,国民の知る権利や情報公開の理念に反した,〈行政の密室化〉をもたらすことになるからである。
これらの秘密を侵害する行為の態様としては,探知と漏泄がある。在日米軍の機密については,その探知,収集,漏泄を処罰する,〈日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法〉6条が存在するが,日本の国家秘密については,その探知・漏泄を直接処罰する規定はない。公務員には,公務員法上,守秘義務が課されているが,これは,職務上知ることのできた秘密を漏泄する行為を禁止・処罰するものである(国家公務員法100条,109条12号。地方公務員法34条,60条2号)。第2次大戦前は,刑法85条に,スパイ罪の規定が置かれていたが,戦争の放棄を宣言した憲法9条に抵触するとして,1947年の刑法の一部改正により削除された。なお,改正刑法草案は,その136条で,公務員が職務上知りえた機密(国または地方公共団体の有する秘密のうち特に重要なもの)を漏示する行為を処罰することとしており,また,その審議過程では,機密探知罪を設けることが検討され(審議のすえ,見送られた),機密保護のあり方につき大きな論議を呼んだ。
執筆者:山口 厚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報