改訂新版 世界大百科事典 「軍事秘密」の意味・わかりやすい解説
軍事秘密 (ぐんじひみつ)
武力戦に関係ある知識およびそれらの知識にかかわる文書,図画,物件などのうち,外国に対し秘匿する必要があるため,秘密事項に指定したものをいう。たとえば陸軍・海軍・航空などの戦力,軍事政策,作戦計画,動員計画,出動計画,編制,装備,訓練,軍用に供する人的・物的資源,暗号などには,戦いに勝つため秘匿を必要とするものが多い。一方,これらを知得しようとする外国からの諜報,謀略が行われる。したがって世界各国とも国家機密,軍事秘密を定め,その漏洩(ろうえい)の防止に努めるので,各国のあいだでは情報・対情報の激しい戦いが不断に実施されている。
日本にはかつて〈軍機保護法〉が存在した。現在軍事秘密という用語はないが,内容的には同種のものがある。その一つは〈日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法〉(略称〈防衛秘密保護法〉)に定めた防衛秘密である。これはアメリカから供与された装備品などの構造または性能・製作・保管・修理に関する技術,使用の方法,品目および数量などで,公表されていないものである。防衛秘密は,その秘密保護の必要度に応じて機密,極秘,秘に区分する。機密とは秘密の保護が最高度に必要であって,その漏洩が日本の安全に対しとくに重大な損害を与えるもの,極秘とは秘密の保護が高度に必要であって,その漏洩が日本の安全に対し重大な損害を与えるおそれのあるもの,秘とは秘密の保護が必要であって,機密や極秘に該当しないものをいう。〈防衛秘密保護法〉は処罰を含めた厳しい規則を設けてある。
このほか防衛庁をはじめ各省庁では,所掌事務に関する行政情報のうち,国家や社会の安全に関する秘密やプライバシー,企業秘密,行政を円滑に運営するため秘匿を必要とする情報があるので,秘密保全に関する規定を定めて,これを保護している。しかし,国民には行政情報を知る権利があるので,秘密事項を限定し,国民生活に役だつ行政情報は公開して,秘密保全との調整が必要である。
執筆者:森松 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報