改訂新版 世界大百科事典 「歴代志」の意味・わかりやすい解説
歴代志 (れきだいし)
Chronicles
旧約聖書にある上・下2巻の歴史書。翻訳聖書では《列王紀》に続く書物だが,ヘブライ語原典聖書では巻末に置かれている。上1~9章は最初の人アダムからダビデまでの系図,上10~29章はダビデ伝,下1~9章はソロモン伝,下10~36章は王国分裂からバビロン捕囚までの歴史について語る。この時間的広がりは,《創世記》から《列王紀》に至る9書の歴史に等しい。事実,《歴代志》の著者は《サムエル記》と《列王紀》の相当部分を引用する。しかし,エルサレム神殿とその祭司,祭儀に無関係な事件はいっさい無視する。しかも北イスラエル王国に対する敵意を隠さない。このような著作態度から,《歴代志》は,エズラ-ネヘミヤの改革によって追放されたサマリア人に対し,エルサレム神殿を中心とするユダヤ人神政共同体の正統性を主張して,前4世紀ごろ成立した論争的史書であると考えられる。全体として傾向性が強いが,歴史性の高い資料も含まれている。
執筆者:石田 友雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報