しせい‐かん ‥クヮン【死生観】
※不二(1942)〈日笠有二〉拝む
こころ「死生一如の
境地は我が日本武士の死生観であります」
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デジタル大辞泉
「死生観」の意味・読み・例文・類語
しせい‐かん〔‐クワン〕【死生観】
生きることと死ぬことについて、判断や行為の基盤となる考え方。生と死に対する見方。
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しせいかん
死生観
view of life and death
死生の語意は,文字どおり,死ぬことと生きることである。また日常用語としては,生死ということばと類似している。しかし生死は「しょうじ」とも読み,この場合はもともと仏教的な背景をもつ用語とされる。一方で死生は,古くは『論語』などでも用いられていることばである。日本における死生観は,明治から昭和にかけて活躍した仏教学者・布教家であり,仏教・儒学などの東洋思想を土台とした修養思想の啓蒙家である加藤咄堂の著書『死生観』(1904)に,その名の由来があるとされる。また民俗学者の柳田国男は1913年に雑誌『郷土研究』を創刊,これが日本人の死生観の研究の先駆けとなり,フィールドワーク的研究の端緒となったといわれる。
近代以前の社会では,共同体や地域社会の共通の事象として,また関心事として人間の誕生や死がとらえられており,生も死も日常生活の中から学ぶものであり,死生をめぐる文化の継承が代々の人間の営みの中で行なわれてきた。しかし現代社会では,死や生のあり方自体が改めて問われるようになってきている。たとえば医療における延命技術の進歩があり,さらに臓器移植が法的に認められたにもかかわらず,依然として日本では欧米より臓器提供者は少ない。このように死生観が新たに注目されるようになった背景には,現代人の生活が死生の文化から疎外され,新たな科学的知見と文化や宗教的死生観との間に齟齬が見られるようになったという現状がある。
現代社会においては,価値観の多様化に伴い死生観そのものも多様化し個人化してきており,さまざまな場面で死生をめぐる自己決定を求められるようになってきている。こうした中で自らの死生観を吟味し確立する必要性に迫られるようになったことも,今日,死生観に対する注目度が上がっている理由と考えられる。たとえば闘病記がベストセラーになるなど,多様な死生観に接する機会を得ようとして,人びとはさまざまな宗教や文学作品に見られる死生観に関心を示している。また,遺言やエンディングノートの作成などには,中高年に限らず若い世代も興味を示すようになってきているのが近年の特徴ともいえる。
こうした中から医療や福祉の現場にかかわる専門職のみならず,一般の人たちの間でも死生にかかわるテーマを系統立てて学びたいという動向が生じてきた。死生学death and life studies,thanatologyの興隆はこうした文脈からとらえることが可能である。thanatologyは,老年学gerontologyとともにメチニコフMechnikov,I.I.が生み出した用語といわれるが,老年学においても主要な研究領域として位置づけられている。
死に関する心理学的研究や心理学の視点からの死生観に対する関心も,死と生に関する諸問題を科学的にとらえたいという背景から生じてきたものといえよう。死についての心理を客観的に研究することは,医療現場をはじめとした社会の多様な側面で活用可能な指針の確立の試みとして有用である一方,価値観が関与する領域を量的に評価することには困難さが伴い,得られた結果がどのような文脈で利用されるのかを吟味することも重要である。心理学的死生観の基礎を構築した人物としては,フロイトFreud,S.,ユングJung,C.G.,フランクルFrankl,V.E.,キューブラー・ロスKubler-Ross,E.などが挙げられるが,それぞれ宗教的死生観やニヒリズム的死生観との相克を経て,死の否認と受容を研究した先駆者として位置づけることができよう。
〔古澤 有峰・長田 久雄〕
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出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
世界大百科事典内の死生観の言及
【死】より
…この著作は死に対する人間の態度を歴史的に概観したものであるが,それはやがて現代にいたって,〈死をタブー視する〉態度へと転じたといっている。先にのべた〈往生伝〉や〈往生術〉などの中世的な世界観にたいして,死の問題を医学や病院の手にゆだねてタブー視する態度は,たしかに近・現代に固有の死生観に由来するものと思われる。しかし,そのような全般的な状況のなかで,日本人がそれなりに独自の死に対する観念を発達させてきたことはいうまでもない。…
【時間】より
…そこでは繰り返す時間の観念は否定され,終末に向かって進んでゆく時間の変化が問題となった。このような時間意識の変化は基本的なところで死生観の変化を前提にしている。ゲルマン人の円環的時間意識のもとでは人間は死後冥界に入るが,冥界は現世と交流可能な世界であり,死者は消えてしまうのではなく,現世とのつながりを保ちつつ,別な世界で生きつづけるのである。…
【ヨーロッパ】より
…
[キリスト教の浸透と宇宙観の転換]
ヨーロッパ中世社会が他の文明圏とは異なった文明を築き上げる基礎をつくりえたのは,まさにこの互酬関係を独自な形で止揚したからであり,それはキリスト教を媒介として二つの宇宙という観念を打破していくことでもあった。互酬性という強固な絆がヨーロッパにおいては少なくとも公的な生活の分野では背後に退いていくことになったのは,何よりもまずキリスト教の力によるものであるが,それを具体的にいうならば二つの宇宙の観念が死生観の転換を軸にして消滅させられ,一つの宇宙という図式に置き換えられたことによるものである。古ゲルマン人における贈与慣行は11世紀ころから大きな変化をみせ,キリスト教の浸透とともに,返礼のない無償の贈与の形が生まれていく。…
※「死生観」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報