改訂新版 世界大百科事典 「毒グモ」の意味・わかりやすい解説
毒グモ(蜘蛛) (どくぐも)
poisonous spider
クモの毒は一般に餌となる昆虫に対して作用するため,他の有毒動物であるヘビ,サソリ,ハチなどの毒と比較するときわめて弱い。クモが人などを積極的に襲うことはなく,人や哺乳類,鳥類に対しては,かまれても少し痛い程度のものが大部分である。しかし,世界で記録されている約3万5000種のクモの中には明らかに有害な毒グモとして数種が報告されている。毒の成分は定かではない。もっとも有名なものは,北アメリカ~中央アメリカに分布しているクロゴケグモと,オーストラリアのシドニー周辺に分布しているシドニージョウゴグモAtrax robustusである。この2種は人や家畜に対しての刺咬(しこう)症例も多く,10例以上の死亡例を含めた多数の被害が報告されている。このほか,オーストラリア,太平洋の熱帯地域の島々に分布しているセアカゴケグモ,南アメリカ,中央アメリカ,太平洋の熱帯地域の島々に分布しているハイイロゴケグモ,アメリカ合衆国南部に分布しているイトグモの1種Loxosceles reclusa,ブラジルに分布しているコモリグモの1種Lycosa raptoriaとLycosa erythrognathaおよびシボグモの1種Phoneutria feraなどが知られている。日本でもっとも毒の強いクモはカバキコマチグモChiracanthium japonicumで,かまれると赤くはれ,アレルギー体質の人では痛みが数日続く場合もあるが,通常は30分~3時間くらいで痛みはなくなることが多い。
なお,ドクグモは1914年よりLycosidae科に含まれるクモの総称として使用されてきたが,68年8月に,東亜蜘蛛学会総会においてコモリグモに変更されている。
執筆者:新海 栄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報