鏃(やじり)に毒物を塗った矢をいい,現在でも一部の狩猟民の間で,獲物の捕殺用に使われている。かつては戦闘用の武器としても用いられ,ラテン・アメリカ,アフリカを訪れた探検家や〈征服者〉が最も恐れたのは,かすかな風切り音とともに突如飛来する,この毒矢であった。ギリシア語では弓矢をトクソンtoxonというが,その中性の形容詞形トクシコンtoxikonは,すでに古代ギリシアにおいて〈矢毒〉の意味で用いられており,毒矢の歴史の古さを示している(ドイツ語で〈毒〉を意味するトクシクムToxikumも,この語に由来)。用いられる毒物の種類は多いが,地域によって明確な違いがあり,南アメリカではクラーレ,東南アジアではクワ科のAntiaris toxicariaの乳状の樹液イポー(ヒポー,ウパスとも呼ぶ)が用いられる。アフリカではキョウチクトウ科の植物が中心であり,Tanghinia veneniferaの種子から採るタンギン(ケルベラ・タンギンともいう),Strophanthus gratusの種子やAcocanthera schimperiなどの樹皮・樹幹から採るウワバイン,Strophanthus hispidusの種子から採るケルベラ,マメ科でフジに近縁のPhysostigma venenosumの種子であるカラバル豆などが用いられる。東アジアではトリカブトの根から採る烏頭(うず),附子(ぶし)が主役で,アイヌもこれを用いた。
→毒 →吹矢 →弓矢
執筆者:藤島 高志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
… 後期旧石器時代の末には弓矢というまったく新しい武器が発明され,中石器時代をつうじて世界中に普及した。弓矢の普及とともに毒矢の使用も始まったと考えられる。槍とちがって,弓矢はより遠くから正確にかつ高速で獲物を射ることができるが,破壊力は小さく,したがって毒矢を併用することによってはじめて,狩猟効率を高めることができたからである。…
…シャーマンや呪術師,妖術師によって使われる〈毒〉は,つねに目に見えるとは限らない。部族社会での病気あるいは死はしばしば彼らによって〈毒〉を盛られたとの解釈をもたらすが,この場合の〈毒〉は目に見えぬ毒矢や毒虫(ヘビやサソリなど)による攻撃,さらには言葉自体の中に〈毒〉を含む(呪詛(じゆそ))とさえ考えられ,説明される。呪術,妖術による〈毒〉はしばしば呪薬としてみられる。…
※「毒矢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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