改訂新版 世界大百科事典 「水理模型」の意味・わかりやすい解説
水理模型 (すいりもけい)
hydraulic model
大気,海洋,河川等の流れの研究において,水槽内に原型と類似の流れを再現して,観察・測定する装置をいう。自然そのものと違って諸条件が制御でき,広い範囲で変えられ,繰返し調べられる点に長所がある。風波程度の小規模現象には実物大の模型,津波や海流などの大規模の現象には縮小模型が用いられる。地形や建物の模型は幾何学的相似性だけ保てばよいが,流体の運動の模型では,さらに,流体に働いている力の大きさの比を原型に合わせるという力学的相似則を満足させる必要がある。このためにはレーノルズ数が原型に等しくなるように模型の時間縮尺と空間縮尺を決めることが必要である。
水理模型は今日では,船舶や飛行機,流体機械,漁具等の設計,沿岸域における津波・高潮・潮流・波浪のふるまい,および排水や煙の拡散現象の研究と予測,黒潮やジェット気流等の力学的研究の一手段として使われている。
一方,大気や海洋を格子状に区切り,各ます目ごとに数値を与えて,流れや温度・物質の分布等を表現した模型を数値模型という。データ量が非常に多いので,このためにはコンピューターが用いられる。あるます目の空間内の物質や運動量・エネルギー等の時間的変化率は,周りのます目からの正味の流入量と内部で生成・消費される量の和に等しい。これは保存則と呼ばれ,この保存式に基づいて,諸量の時間的変化と空間的分布が計算される。自然そのものと違って諸条件が制御でき,水理模型と比べて広い範囲で与えることができる自由度がある。
気象学の分野では1922年にL.F.リチャードソンらによって天気の数値予報の試みがなされた。その後,とくに第2次世界大戦後から今日に至るまでに大型で高速のコンピューターが発達し,数値シミュレーションは気象学・海洋学を含む自然科学の分野で著しく進展した。時々刻々収集される観測データの処理,小規模な対流・風波から大気・海洋の大循環流のような大規模の運動をも含む諸現象の力学的機構の研究,さらには,天気予報や環境影響事前評価などにおける予測計算の一手段として,活用されている。
→シミュレーション →数値予報
執筆者:杉本 隆成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報