ジェット気流(読み)じぇっときりゅう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジェット気流」の意味・わかりやすい解説

ジェット気流
じぇっときりゅう

狭い範囲に集中し、中心に軸状の最大風速をもつ強い気流をいう。その状態が噴流に似ているのでこの名がある。ジェット・ストリームjet streamまたは単にジェットともよぶ。

[股野宏志]

特徴と種類

ジェット気流の特徴は、風速が非常に大きいことのほか、軸に直角の方向に風速の変化も非常に大きいことである。ジェット気流には、偏西風帯ジェット気流、偏東風帯ジェット気流、極夜ジェット気流、下層ジェット気流などがある。単にジェット気流といえば、偏西風帯ジェット気流をさす。

[股野宏志]

偏西風帯ジェット気流

極を取り巻いて中緯度地方の上空を川のように蛇行しながら流れている偏西風帯には、寒帯前線ジェット気流亜熱帯ジェット気流とよばれる二つのものがある。寒帯前線ジェット気流は、寒帯前線が圏界面に達する付近(約10キロメートルの高さ)にあり、その流れ方は毎日変動し、地上の高気圧や低気圧の盛衰や動向と密接な関係にある。寒帯前線付近は南北方向に温度差が大きく、これによる温度風効果が寒帯前線ジェット気流の成因とされている。また、その運動エネルギーは、寒帯前線を挟む寒暖両気団のもつ位置のエネルギーの転化によると考えられている。一方、亜熱帯ジェット気流は、寒帯前線ジェット気流に比べ、やや高いところにあり、日々の変動も少なく、定常的な流れである。その成因は、赤道地方で地球を東西に取り巻いて流れている空気の大きな輪を考えるとき、これが赤道で加熱されて対流のように上昇して高緯度に向かうと、角運動量保存の法則により、しだいに風速を増し、緯度30度付近で風速の傾度臨界に達して、風速がそこで極大になることによるとされている。日本の梅雨(つゆ)明けはこのジェット気流(亜熱帯ジェット気流)と密接な関係にある。

 冬季には、寒帯前線ジェット気流と亜熱帯ジェット気流は、日本付近とアメリカ大陸東部で合流し、風速は著しく大きくなって、しばしば毎秒100メートルを超えることがある。第二次世界大戦中、サイパン島から日本本土に向かうアメリカのB-29爆撃機が非常に強い西風に遭遇したことが端緒となって、ジェット気流が組織的に研究されるようになった。ジェット気流はジェット機の巡航高度にあたるため、追い風として利用し、向かい風として避けるなど、航空機の運航に利用されるが、ジェット気流付近には晴天乱気流が発生しやすいのでとくに警戒を要する。また、ジェット気流は汚染物質や噴火による細塵(さいじん)などの長距離運搬に大きな役割を果たす。

[股野宏志]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジェット気流」の意味・わかりやすい解説

ジェット気流
ジェットきりゅう
jet stream

中緯度対流圏上層の偏西風帯で風速が強い部分。世界気象機関 WMOでは,風速 30m/s以上の強い風と定義している。おもに亜熱帯ジェット気流と寒帯前線ジェット気流に分類され,強さは南北両半球とも冬季に最大となる。亜熱帯ジェット気流は南北両半球の緯度約 30°,高さは約 1万2000m(200hPa)付近にあり,時間的にも空間的にも変動が比較的小さい。寒帯前線ジェット気流は亜熱帯ジェット気流の高緯度側に寒帯前線に付随して高さ 約 9000m(300hPa)付近に現れるが,時間的にも空間的にも変動が大きい。日本付近やアメリカ大陸上層などでは亜熱帯ジェット気流と合流することも多い。日本付近を流れるジェット気流は世界でも強く,冬季には風速 100m/s以上にもなる。第2次世界大戦中,アメリカ軍が日本本土を空襲したときに,強い西風を受けたことがジェット気流発見の発端となったといわれている。このほか,中間圏の冬の極夜ジェット(西風)と夏の東風ジェットや,局地的な前線に関係し集中豪雨を発生させる下層ジェットなどがある。なお,ジェット気流に伴って発生する雲を「ジェット気流雲」という。ジェット気流雲は,上層のCiストリーク(シーラスストリーク)やジェット気流の中心のすぐ南側に,その流れに直交して現れる巻雲系の雲(トランスバースライン)がある。

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