日本大百科全書(ニッポニカ) 「水銀ランプ」の意味・わかりやすい解説
水銀ランプ
すいぎんらんぷ
mercury lamp
数気圧の高圧水銀蒸気中のアーク放電から放射する光を利用したランプ。高圧水銀ランプともいい、安定器や照明器具を含めたシステムをさす場合には水銀灯という。
[小原章男・別所 誠]
歴史
1901年アメリカのクーパー・ヒューイットPeter Cooper-Hewitt(1861―1921)がつくったクーパー・ヒューイット型水銀灯といわれるものに始まる。これに種々の改良が施され、1931~1934年にかけ、ドイツ、オランダ、イギリスなどで実用化された。水銀蒸気圧をさらにあげた(数百気圧)超高圧水銀灯は、1935年にオランダが発表している。日本では、1917~1922年(大正6~11)ころタングステン水銀アーク灯などが研究され、1934年(昭和9)に300ワット高圧水銀灯、1938年に100ワット超高圧水銀灯が発表されたのが実用化の始まりである。日本で本格的に普及したのは1951年(昭和26)ころからで、1954年に外管ガラス球内面に蛍光体を塗布した蛍光水銀ランプ、1966年に一般照明用20キロワット水銀ランプ、1970年に低雑音水銀ランプなどが発表された。
[小原章男・別所 誠]
構造・原理
もっとも一般的な蛍光水銀ランプを例にとると、内部は石英の発光管に1対の電極を封じてあり、水銀と始動用のアルゴンガスを封入するようになっている。外管ガラス球の内面に蛍光体(水銀の発光は青白い光なので、光色を改善するため、主波長620ナノメートルの赤色光を発光する蛍光体を主体とする)を塗布してあり、発光管から放射する紫外線(おもに365ナノメートル)を可視光(赤色光)に変えて効率を向上させ、演色性も改善している。外管ガラス球内には窒素ガスを封入してある。
水銀ランプの電極は予熱しない冷陰極のため、点灯させるには、安定器の二次電圧を200ボルトとしてある。
[小原章男・別所 誠]
種類
現在用いられているものとしては、水銀ランプ(透明型)、蛍光水銀ランプ、安定器内蔵型水銀ランプのほか、特殊ランプとして超高圧水銀ランプ、光化学用水銀ランプなどがあげられる。
(1)水銀ランプ(透明型) 透明の外管は、蛍光体が塗られていないガラス球のため、水銀の青白い光がそのまま放射される。赤色光が不足しているので、照明用途は広場、庭園などの屋外照明に限られる。
(2)蛍光水銀ランプ 暖かみのある白色光で、道路、工場、公共施設、広場などの屋外や高天井屋内の照明に使用される。また赤色蛍光体のほかに青緑色蛍光体を加えて、さらに演色性を改善したランプもある。
(3)安定器内蔵型水銀ランプ 水銀ランプではアーク電流をある値以下に制御するため、チョークコイルなどの安定器を使用する。これをタングステンフィラメントの抵抗で代用させ、ランプ内に取り付け、同時にフィラメントの光も利用したものである。効率は低くなるが、光色、演色性が改善される。安定器が不用で、電球の受け金にそのままつけられる。
(4)超高圧水銀ランプ 水銀蒸気圧を10~数百気圧に高めたランプで、連続スペクトルの部分が加わるため、光色はさらに白くなり、輝度が高い。電極間距離が0.2~数ミリメートルの丸形(大きさ50ワット~1キロワット)のものは、光学機器、フォトエッチング、製版・焼付けなどに使用される。また、棒状のものは(内径1~数ミリメートル、電極間数センチメートル)、ブラウン管の蛍光体焼付け、印刷製版、半導体・集積回路(IC)製造のフォトエッチングなどに使用される。
(5)光化学用水銀ランプ 光化学反応には、近紫外線域のエネルギーを利用するものが多い。水銀から放射する365あるいは313ナノメートルの波長の紫外線をよく透過する石英または高シリカガラスの外管を用いた水銀ランプが使用される。大きさは400ワット~40キロワットのものがある。
[小原章男・別所 誠]
特性
水銀ランプは、他のHIDランプ(メタルハライドランプや高圧ナトリウムランプなどの高輝度放電ランプ)に比べ効率が低いが、大出力が得られる。また、品種が多い、寿命が長い、光束維持率がよい、などの特徴があり、屋外照明ではもっとも多く使用されている。しかし、演色性はメタルハライドランプに、効率は高圧ナトリウムランプに劣るので、場所や用途によってはそれらのものにかわりつつある。
[小原章男・別所 誠]