油・脂・膏(読み)あぶら

精選版 日本国語大辞典 「油・脂・膏」の意味・読み・例文・類語

あぶら【油・脂・膏】

〘名〙 動物の脂肪、植物の実や種子鉱物などからとれる、水に溶けない可燃性の物質。灯火用、食用、薬用、燃料用などに広く用いられる。普通液体のものをいうが、脂肪のように、常温では固体のものもある。
[一] 動物性および植物性の油脂
① 植物性の油。脂肪油。
※十巻本和名抄(934頃)四「油 檮押附 四声字苑云油〈以周反 阿布良〉迮麻取脂也」
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「鬢(びん)さんけふはちっと油(アブラ)をつけてもらはうぜ」
② 動物性の脂肪。
(イ) 動物の体内にあって、肉などについている一種の粘液
書紀(720)神代上(水戸本訓)「譬へば浮べる膏(アフラ)の猶(ごと)くして漂蕩(ただよ)へり」
五重塔(1891‐92)〈幸田露伴〉一「人の膏血(アブラ)はよき食なり、汝等剣に飽まで喰はせよ」
(ロ) 体内から皮膚を通して分泌した脂肪。
※落梅集(1901)〈島崎藤村〉労働雑詠「流るる汗と膩(アブラ)との 落つるやいづこかの野辺に」
③ 酒の上にぎらぎらと浮き上がっているもの。酒膏(さかあぶら)。転じて、酒。
※古事記(712)下・歌謡「捧がせる 瑞玉盞(みづたまうき)に 浮きし阿夫良(アブラ) 落ちなづさひ」
[二] 石油など鉱物からとれるもの。また、植物からとれ、おもに香料となる精油
※魔風恋風(1903)〈小杉天外〉後「石油(アブラ)買ふお銭もね?」
[三] 比喩的用法
① (火に油をかけるとよく燃えるところから) おだてること。おせじ。へつらい。追従(ついしょう)。→あぶらを言うあぶらを掛ける
浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)七「口先でちょっぽ草津から取寄ましたと油半分」
※歌舞伎・木間星箱根鹿笛(1880)二幕「『大層売れるさうでござんす』『お前が流行るやうなものさ』『おやお上さん、油過ぎますよ』」
② 活動の原動力になるもの。活動のみなもと。エネルギー。
※油地獄(1891)〈斎藤緑雨〉一四「爾(さう)とも知らぬ女が、最些としたら貰へませうと慰めるのも油(アブラ)になって」
③ (汗やあぶらを出して働くところから) 人の労苦、骨折り。また、それによって得た産物
※浄瑠璃・祇園女御九重錦(1760)三「纔(わづか)の畔(あぜ)の作り物、農業の脂(アブラ)を盗む、天の冥罰立所に」
④ 俄(にわか)狂言で、その始終を勝手なことばを使ってひきのばすこと。
※古今俄選(1775)一「あぶら、是は其俄の始終のうちを、出放題にことばにて引張る事也。あぶらを取といふ事なるべし」
⑤ (「油虫」の意から) 他人にたかって遊興する者。また、芝居の無銭入場者など。
※浮世草子・諸道聴耳世間猿(1766)四「番付にない名をいふてくろとがるの油」
[四]
① 「あぶらぜみ(油蝉)」の略。
※銀の匙(1913‐15)〈中勘助〉後「あぶらはやかましいばかり」
[補注](1)漢字表記は常温で液体のものを「油」、固体のものを「脂」、また肉のあぶらを「膏」と書き分けることがある。
(2)平安時代には、「おおとのあぶら」「おおとなぶら」「おおとなあぶら」などの形で、明かりを意味する語としても用いられた。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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