初期仏教経典の一つ。原題はパーリ語で《ダンマパダDhammapada》。パーリ語原典は南伝上座部の〈小部経典〉の一つであるが,他にガンダーラ語,サンスクリット(《ウダーナ品》),漢訳(《法句経》《出曜経》など),チベット語訳,および中央アジア諸語による断片もあり,きわめて広く普及していたことが知られる。本経は短い詩句の集成で,初期仏教教団で伝持されていたものが後に編集されたと考えられ(前4~前3世紀),初期仏典中でも最も古いものの一つである。内容は必ずしも体系的ではないが,形而上学的思弁を否定した平明で合理的な初期仏教の人間観,実践観が簡潔に表明されている。近代においても世界の諸国語に翻訳され,最も広く親しまれている仏典である。
執筆者:末木 文美士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
原始仏教の経典。パーリ語テキストは『ダンマパダ』Dhammapadaと称し、小部に属する。諸資料のうち、おそらく最古のものの一つで、もっとも広く仏教徒に愛唱されて今日に至る。詩(韻文)形式で、パーリ語は423偈(げ)、相当する漢訳は500偈で、テーマなどにより26章に分けられているが、漢訳テキストにはさらに13章258偈が追加された。文章は平明で、深い宗教的境地が盛り込まれており、仏教のいわゆるバイブルの役割を果たしている。なお『法句譬喩(ひゆ)経』『ガンダーリー・ダルマパダ』『ウダーナバルガ』『出曜経(しゅっようきょう)』などの異本があり、水野弘元著『法句経の研究』(1981・春秋社)はすべてを網羅し、比較対照する。また邦訳、解説書も多数ある。
[三枝充悳]
『中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』(岩波文庫)』▽『友松円諦著『法句経講義』(講談社学術文庫)』▽『藤田宏達訳『ブッダの詩I』(1986・講談社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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