日本大百科全書(ニッポニカ) 「浮生六記」の意味・わかりやすい解説
浮生六記
ふせいろっき
中国、清(しん)代の文語小説。沈復(しんふく)(1763―?)の自伝。1877年刊。六巻。「閨房記楽(けいぼうきらく)」「閑情記趣(かんじょうきしゅ)」「坎坷記愁(かんかきしゅう)」「浪游記快(ろうゆうきかい)」「中山記歴(ちゅうざんきれき)」「養生記道(ようじょうきどう)」の六記であるが、前四巻だけ現存する。この小説は自伝であること、亡き妻を思う情の切なることで中国では珍しい作品である。妻との結婚生活、家族間のトラブル、幕客としての放浪生活など経済的にも感情的にもつらい立場にある妻への温かい目、夫のためにふさわしい妾(めかけ)を得ようと努力する妻、愛のみに生きた下層読書人の生活を如実に描いた珠玉の小品である。
[尾上兼英]
『松枝茂夫訳『浮生六記』(岩波文庫)』