画商(読み)がしょう(英語表記)art dealer

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

画商
がしょう
art dealer

ないし美術商が存在するためにはコレクターの存在が前提とされる。古代エジプト,アッシリアなどにはおそらく画商は存在せず,ギリシアもようやくヘレニズム時代に入ってローマ人相手の美術商が登場したと考えられる。職業としての美術商が確立されるのはルネサンス時代からで,ティツィアーノの肖像でも有名な J.ストラーダはその1人。当時のアントウェルペンは美術品の輸出入の中心港でもあり,特に初期フランドル絵画が盛んに売買された。 D.ナイスはここの画商の1人でマントバ公のコレクションをイギリス王チャールズ1世に売ることで一躍名をあげた。特に 17世紀のオランダでは画が一般市民の家庭にも普及したため,取引が盛んになり,画家自身が画商を兼ねることも多かった。職的画商のほか,各地の駐在大公使が国王や貴族の美術品購入の任務をまかされることも多かった。スペインのフェリペ4世は宮廷画家のベラスケスを美術品購入のためイタリアに派遣した。 18世紀はパリの T.クロザ,イギリスの H.ウォルポール,ドレスデンのブリュール伯などの個人の大コレクションが形成され,それに伴って画商の数もふえたが,なかでもパリのジェルサンは,ワトーがその看板を描き,しかもこれが彼の代表作の1つとなっていることで有名。 19世紀に入ると印象派を扱った D.リュエルや B.ジュヌなどが登場し,さらに 20世紀にかけては A.ボラール,D. H.カーンワイラー,W.ウーデ,ズブロウスキーなど,個性的な画商が登場し,世に認められる前のセザンヌや税関吏として働いていた H.ルソー,ピカソ,モジリアニらを発見するなど,美術史的にも重要な働きをした。

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世界大百科事典 第2版の解説

がしょう【画商】

絵画,版画などの美術品を売買する商売,またその商人。絵画や版画のほかに彫刻,工芸も扱うものは美術商,古美術中心の商人は骨董(こつとう)商ともいう。美術品は,良質な素材,優秀な制作技術,独自の表現,良好な保存などの美的品質と,信仰,歴史的資料,権威や富の象徴,建築や身体の装飾,大衆的嗜好などの社会的需要が結びつくと,商品価値をおびる。
[西洋の画商]
 美術品の交易の歴史は古く,前2000年ころのエトルリアの墓から,エジプト,小アジア,フェニキア産の銀器銅器,ガラス器が出土している。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

画商
がしょう

美術品のうち、とくに絵画類を専門に売買する人。ヨーロッパ史をみると、画商が出現するのは資本主義の進展に伴っている。美術品の売買は古くからあったが、その大部分は、王侯、貴族、寺院の直接的な依頼、購入によるものであり、制作者との間を仲介する人間が必要となったのはルネサンス以降である。それも初めは、人と人の間をなにかととりもつ僧侶(そうりょ)の仕事であったり、画家自身の仕事であったりしたが、中世的なギルド組織の崩壊とともに、独自の職業として自立することとなった。画商、より広くいえば美術商の誕生は18世紀の中ごろで、ジェルサン、ルブラン、ラザール、デュボといった名前が知られている。彼らは少数の大ブルジョアを相手とし、骨董(こっとう)品を主とする商人だった。それ以前の16、17世紀から、あらゆる物品を扱う競売業者が美術品をも扱っていて、そのなかから、専門商が分化したと考えられているが、他方、画材店から転向した人も少なくない。
 近代的な意味での画商、すなわち同時代の画家の作品をもっぱら商う職業が成立するのは19世紀中期であり、その最初の人として、パリのデュラン・リュエルやベルネーム・ジューヌがあげられる。彼らは、バルビゾン派、印象派、そして後期印象派と、相次いで登場する同世代の作品を世に送り出し、19世紀の末には経済的に成功した。その結果、多数の追随者を輩出させ、彼らの激烈な相互競争によって、美術市場が開け、人気作家の価格は高騰し、美術品の売買は完全に資本主義的な職業となった。現代美術の歴史は、画家と画商との複雑な関係史でもあり、ボラールとセザンヌ、カーンワイラーとピカソの例がそれである。
 日本に美術商が発生したのは室町時代の末であり、江戸時代に入って町人階級の経済力の向上に伴い、文化への欲求が高まるとともに、後期には相当活発な美術市場が生まれている。近代的な形態での画商の発生は明治後期末で、1907年(明治40)に三井呉服店(現在の三越)が新美術部を設けたこと、また1910年に高村光太郎が東京・神田淡路(あわじ)町に日本最初の画廊琅(ろうかんどう)を開いたのが最初の例と考えられる。[瀬木慎一]

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精選版 日本国語大辞典の解説

が‐しょう グヮシャウ【画商】

〘名〙 絵を売買する商売。また、それを業とする人。画家と顧客との仲介をする。
※日の出前(1946)〈太宰治〉「ちょっと気にいってゐたので、他の二十枚程の画は、すぐに画商に手渡しても、その一枚だけは手許に残して」

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世界大百科事典内の画商の言及

【コレクション】より

…一方,美術品収集と並行して,中世の百科全書的伝統に源を発する自然科学の分野における収集も,16~18世紀を通じて盛んであったが,時代が下るにつれてそれらは美術館と自然科学博物館に分化していった。
[17世紀以降]
 17世紀の美術品収集の特徴としては,ことにオランダで画商が出現し,不特定の顧客層のために自国の芸術家による静物画,風景画などの小品を扱うようになったことが指摘できる。しかし,それとは別に,王侯貴族や高位聖職者,政治家による大規模な収集も相変わらずヨーロッパ各国で盛んであり,そうした収集に占める古代美術やイタリア美術の比重は,まだ大きかった。…

【パトロン】より

…逆に,ドメニコ・ベネツィアーノやウッチェロの作品を持ちえたことを神に感謝したといわれる,15~16世紀イタリアの詩人ルチェラーイG.Rucellaiの例もあげられるほどである。 このような関係は,基本的には近代・現代でも同様であるが,教会,宮廷,公共体といった大パトロンをしだいに失い,ブルジョアジー,画商,批評家たちと芸術家の関係が緊密化してくる18世紀以降になると,かえってパトロンの存在は重要になる。たとえば,ワトーの面倒を見たパリの銀行家クロザP.Crozat,印象派の作品を扱ったデュラン=リュエル商会や画商ボラール,あるいは建築家ガウディと信念を同じくして彼に多くの建築を任せたグエルGüell侯爵,キュビスムの画家を支援した画商カーンワイラーなどがあげられる。…

※「画商」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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