海中居住(読み)かいちゅうきょじゅう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「海中居住」の意味・わかりやすい解説

海中居住
かいちゅうきょじゅう

学術的な観測、研究、あるいは海中作業のために、人間が海中に長期間滞在できるようにする方式で、人間がその深さの海中環境に耐えてゆくために必要な物資・エネルギーの供給、居住施設などを含めたシステムをいう。生物学的あるいは地球物理学的観測・研究、サルベージ作業、構造物の据え付け、パイプラインなどの溶接工事、海底掘削、海底石油生産システム、ダム等の修理などのために用いられる。

 海中居住システムの構成としては、海底の居住基地、ダイバー用給気コントロール、電源や資材の供給、水中エレベーター、ならびにこれを支援する母船があり、母船上には減圧室(DDC、deck decompression chamberの略)を備える。普通、海中工事を施工するとき、毎回の潜水作業のあとに減圧が必要であるが、この方式では、一連の作業が終了するまで、その水深に相当する圧力にダイバーを保持する飽和潜水を利用し、全体としての作業能率を高くすることができる。1962年フランスのクストーによる一連のプレコンチナン計画の実験以来、数多くの計画が実施され、82年までに全世界では約55基に達するが、その大半の水深は30メートル以浅で、空気潜水方式である。ヘリウム混合気使用のシステムは、フランス(プレコンチナン計画、水深100メートル)、アメリカ(シーラブ計画、水深183メートル)、日本(シートピア計画、水深100メートル)の3例のみである。これらのシステムはいずれも海底居住基地を設ける方式であり、基地に対するすべての支援は海面に浮かぶ母船からなされるので、気象、海象によって大きく左右される。したがって安全性の面から、この方式は浅海での調査・観測用に向けられるものが多い。一方、海底油田開発作業は、操業の安全度から考えて、このような海底居住基地を設けずに行われる。ダイバーはダイビングベルdiving bellによって海底に降り、作業を終えるとベルに入り、海底と同一圧力に保持されたまま、海上のプラットフォームまたは支援母船上に装備された減圧室に連結され、その中で休息をとる方式をとる。この場合ダイバーの飽和潜水状態は必要期間中、継続されるが、海象悪化のときは減圧室に入ったまま支援船とともに避難する。この方式は現在広く実用化されている。

 将来さらに作業能率を向上させるため、気象の変化に対して母船が避難する必要のない方式として、潜水母船方式がフランスで開発されつつある。これは、海底に潜水母船が定着し、ダイバーがロックアウトlockoutして作業を始め、終われば、潜水母船後部の環境圧力室にロックインする。技術的な大きな問題は、海中での動力を長期にわたって確保する方法であるが、このためには水中スターリング機関がスウェーデンで開発されている。これは液体酸素燃料とを使用する外燃方式のもので、きわめて静かに運転できる高効率機関であり、高圧の水中でも排気が可能である。カナダもこの潜水母船方式に多大の関心を寄せており、動力源として核エネルギーの利用方式の開発を進めている。

[岡村健二]


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