日本大百科全書(ニッポニカ) 「海外子女の教育」の意味・わかりやすい解説
海外子女の教育
かいがいしじょのきょういく
民間企業、政府機関、国際機関などに勤務する両親に伴われて海外に一時的に滞在し、帰国する子供たちの教育を意味し、そのうちで帰国後の教育をとくに「帰国子女教育」とよぶことがある。海外子女の数は、日本の経済、政治、文化諸分野における国際活動が活発化する1960年代から急激に増え、70年代以降、彼らの教育が一つの社会問題となった。
学齢期の海外子女は2006年(平成18)において5万8304人で、その38%がアジア、35%が北アメリカ、19%がヨーロッパ、残り8%がオセアニア、中南米、アフリカ、中近東の各地に居住している。また帰国子女は2004年度において1万0117人であった。これらの子供たちは国際的な異文化間体験を通して、日本国内では得られない国際性を身につけることができると期待されるが、他方、異文化への適応や帰国後の再適応が、とくに受験競争や学歴社会への関心の強い両親たちにとって、大きな問題となっている。
[小林哲也]
施策
こうした両親たちの不安を解消し、しかも今後の日本の国際活動を支える国際性豊かな人材を育てることが、海外子女教育の政策上の目的である。これまでの政府の施策の主要なものは、海外における全日制の日本人学校(85校、2006年、以下同じ)、定時制の補習授業校(187校)への教員派遣や教科書の配布、在外教育施設への国際交流ディレクターの派遣、高校教育を主とする私立在外教育施設の認定(12校)などがある。また、帰国後の施策として、国立大学附属学校における特別学級による帰国子女受け入れ(12校)、普通学級への混合受け入れ(7校)、帰国子女受け入れ地域の指定(29地域)、帰国子女の特別選抜による進学への道の開放の促進(大学399校、短期大学140校)などがある。大学進学の資格については、在外教育施設や現地高校の卒業ないし中等教育修了資格に加えて国際バカロレアを認め、国際学校などの修学者に便宜を図っている。
海外子女教育を支援する機関として東京学芸大学の国際教育センター(1978年設立)が、海外子女教育の教育内容、方法についての調査研究や教材開発、教員への研修、指導助言などを行っている。また、財団法人海外子女教育振興財団(1971年設立)が、日本人学校建設資金援助のほか、通信教育、教育相談、施設教材の整備などの政府補助事業を行っている。
[小林哲也]
課題
1990年代以降は海外滞在の長期化や永住化、滞在理由の多様化、国際結婚の増加などがみられ、また、日本人学校在籍者や比率の減少、現地校に在籍する子供の数や比率の増加などの傾向がみられる。こうした事実は、海外子女教育に対する多様なアプローチと、帰国子女教育への柔軟な対策が必要であることを示している。
[小林哲也]
『文部省学術国際局ユネスコ国際部国際教育文化課編・刊『海外子女教育の現状』(1983)』▽『石坂和夫著『国際理解教育事典』(1993・創友社)』▽『佐藤郡衛著『海外・帰国子女教育の再構築――異文化間教育学の視点から』(1997・玉川大学出版部)』▽『『海外子女教育の現状』(2000・文部省教育助成局海外子女教育課)』▽『海外子女教育振興財団編・刊『新・海外子女教育マニュアル』第5版(2006)』▽『『月刊海外子女教育』(海外子女教育振興財団)』