郵便、ラジオ、テレビなどの通信メディアを利用して教育を行う形態をいう。通信教育は、教育施設に通うことなく職業などに従事しながら教育機会を得ることができるところに最大のメリットがある。受講する側からすると、時間的・空間的制約をある程度免れ、提供する側からすると、既存の施設、職員を併用することにより物的・人的手段を経済化しうる。こうして通信教育は、定時制教育とともに、教育の機会均等を図るための補助的手段とみなされ、したがって全日制教育の拡充とともに、その比重を小さくする傾向にあった。しかし通信教育は、社会主義国のように実生活と教育との結合という原則から、またオーストラリアやメキシコのように広大な国土に人口が点在する事情から、その国の教育制度の不可欠の部分をなす。さらに1970年代以降、生涯教育論の台頭と通信メディアの進歩により、通信教育の新しい位置づけが必要となっている。
[桑原敏明・広瀬義徳]
通信教育は、学校通信教育と社会通信教育とに大別される。わが国の現行制度では、学校通信教育は大学と高等学校で行われている。
[桑原敏明・広瀬義徳]
大学通信教育は、私立大学に限定されていること、スクーリング(面接授業)の時間がとれないこと、個人学習で単調となり、学習時間をきちんと確保しにくいことなどが問題とされている。
1981年(昭和56)6月11日放送大学学園法の制定により、85年度より放送大学が開講し、大学通信教育は新局面を迎えた。特殊法人として設置された放送大学は、高度情報化社会の到来を迎えて、生涯にわたる多様な学習者のニーズを保障すべく、テレビ・ラジオといった通信技術を効果的に活用して教育を実施する機関として創設された。学生の受入れは、年齢が18歳以上で、放送大学の放送授業が受講できる人を対象として書類による選考で行われ、入学試験として学力検査は課さず、比較的幅広い受入れをしている。当初、放送大学の対象地域は関東地域に限定されていたが、98年(平成10)からは、通信衛星を利用したCSデジタル放送により全国放送が開始された。学士取得を目的とする全科履修生についても、同年第2学期から全国各地の学習センターへの一斉受入れが開始され、より多くの受講機会が提供されるようになった。受講者は、その学習目的や動機、入学資格などによって履修方法が異なり、(1)全科履修生、(2)選科履修生、(3)科目履修生、(4)特別聴講学生の4種類に分かれている。今後の課題としては、インターネットなどマルチメディアを活用した教育方法を考案・実施していくことなどがあげられる。2002年度文部科学省学校基本調査によると、放送大学に約8万9300人の学生が在学しており、私立大学の通信教育の学生数約13万7000人とあわせると、約22万6300人が大学レベルの通信教育を受けていることになる。また、短期大学の通信教育は、約2万5000人の学生数を数えている。
[桑原敏明・広瀬義徳]
1999年より始まった大学院通信教育でも、2002年の学校基本調査によると、同年4月から大学院修士課程で学生の受入れを始めた放送大学を含めて14の大学院で通信教育が行われ、約1800人が登録されている。今後は、インターネットなどを活用して、海外の学校や団体が設置・運営主体となって提供する通信教育が増加するとともに、既存の国内の大学院でもこうした通信教育を実施する機関が増えていくことが予想される。
[桑原敏明・広瀬義徳]
高等学校通信教育は1948年(昭和23)新制高等学校の発足とともにスタートしたが、当初、定時制の課程の補助的方法として位置づけられた。通信教育のみで高等学校の卒業が認められるようになったのは55年4月の次官通達によってである。その後、独立の通信制高等学校が制度化されたり、面接指導の便宜を図るために他の高等学校を協力校とする制度、ラジオ・テレビ番組の利用による面接指導時間の軽減、定時制・通信制と技能教育施設との連携、広域通信制の導入などの措置がとられ、現在に至っている。全日制高等学校への進学率の上昇とともに、在籍者数は1971年をピークとして減少傾向にあるが、高齢者の利用が高まっている。2002年度文部科学省学校基本調査によれば、通信制高等学校の生徒数は、公立が約10万7500人、私立が約8万4500人で、合計約19万2000人となっている。年齢別構成では、10代が約13万人と大部分を占めるが、ついで20代が約4万6000人と多く、その他は30代と40代があわせて約1万1000人、50代と60代があわせて約4000人となっている。また、同年度の退学者数は約1万5000人強、単位修得者数は約11万1300人、卒業者は3万6000人となっている。卒業者の大学等進学率は11.0%、専修学校進学率は21.3%、就職率は22.1%とされている。
高度情報化と生涯学習の時代を迎えて、氾濫(はんらん)する情報のなかから有益な情報を編集し、それを多様なチャンネルを使って効果的に学習者へ提供するという社会的要請にかんがみれば、公私を問わず、通信教育の振興と質的改善を図ることが重要な課題となってくる。
[桑原敏明・広瀬義徳]
学校通信教育とは別に、生活や趣味、教養、職業技能などについて種目を特定して学習する社会通信教育がある。社会教育法によると、通信教育とは、「通信の方法により一定の教育計画の下に、教材、補助教材等を受講者に送付し、これに基き、設問解答、添削指導、質疑応答等を行う教育」(50条)である。社会通信教育のうち、一定の要件を満たし、審議会等の答申を経たものについては文部科学大臣がこれを認定している。受講者数は、1970年をピークに減少傾向にあったが、生涯学習の時代を迎え、社会通信教育についても、学習者に占める高齢者層の割合の増加、最新技術教育への志向の高まり、企業内教育への活用、通信教育を実施する民間団体の増加など、新たな動きがみられる。2002年6月現在、文部科学省認定社会通信教育の実施団体数は42団体、課程数は200であり、2001年における1年間の延べ受講者数は約19万5000人であった。需要の多様化や情報通信技術の変化に応じて、新しい社会通信教育のあり方について検討する必要が生じている。
[桑原敏明・広瀬義徳]
通信教育の新しい形態として、パソコンやインターネットを中心としたIT関連技術を活用して行う遠隔教育eラーニングが注目されている。パソコンが一般的に普及し始めた1990年代初めごろから、CAI(Computer Assisted Instruction)とよばれてフロッピーディスクやCD-ROMを教材とするコンピュータによる教育システムが登場した。また2000年ごろから、インターネットや企業のイントラネットを利用したWBT(Web Based Training)が双方向性をもった学習方式として関心を集め、eラーニングと総称されるようになった。eラーニングの特徴は
(1)講師の質の違いに影響されないこと
(2)受講者のレベル・理解度に幅広く対応できること
(3)時間に拘束されずに学習できること
(4)学習の進捗(しんちょく)状況や成績が即座に把握できること
(5)同時に多くの受講者が学習可能なこと
などである。eラーニングは今後さまざまな教育分野に取り入れられ、通信教育の形態を大きく変えていく可能性もある。
[桑原敏明・広瀬義徳]
『30周年記念誌編纂委員会編『文部省認定社会通信教育 30年の歩み』(1978・社会通信教育協会)』▽『私立大学通信教育協会編・刊『開かれている大学――大学通信教育』(1987)』▽『白石克己著『生涯学習と通信教育』(1990・玉川大学出版部)』▽『奥井晶著『教育の機会均等から生涯学習へ――大学通信教育の軌跡と模索』(1991・慶応通信)』▽『西山健児著『通信制高校に学ぶ青春 もう一つの学校』(1998・かもがわ出版)』▽『文部省編『我が国の文教施策 平成12年度 文化立国に向けて』(2000・大蔵省印刷局)』▽『坂手康志著『Eラーニング――教育のインターネット革命』(2000・東洋経済新報社)』▽『荒木浩二著『実践 eラーニング――競争優位に立つ最新手法と成功モデル』(2002・毎日新聞社)』▽『先進学習基盤協議会編著『eラーニング白書 2002/2003年版』(2002・オーム社)』▽『森田正康著『eラーニングの常識――誰でもどこでもチャンスをつかめる新しい教育のかたち』(2002・朝日新聞社)』▽『笠木恵司著『インターネットでMBA・修士号を取る――ビジネスパーソンのための米英100大学eラーニング活用法』(2002・日経BP社)』▽『玉木欽也ほか編、青山学院大学総合研究所AML2プロジェクト著『eラーニング実践法――サイバーアライアンスの世界』(2003・オーム社)』
通学が困難な者に対し,郵便や放送などの通信手段を利用して行う教育方法。1856年にドイツのランゲンシャイトGustav Langenscheidt(1832-95)が行ったフランス語通信教育が初めであるが,イギリス,アメリカなどにも広がっていった。当初は大学拡張運動の一環として位置づけられ,成人を対象としていたが,後に辺地の義務教育の代替としても利用された。現在ではイギリス,アメリカ,ロシア,スウェーデン,オーストラリアをはじめ,世界各国において広く普及している。
日本においても中央法学会の講義録や東京専門学校(早稲田大学の前身)の政治学講義録などを先駆とし,1902年大日本国民中学会による中学講義録,30年国民工業学院,37年慶応出版社の通信講義録など,民間団体による通信教育が行われた。これらはいずれも公的な教育体系に位置づけられるものではなかったが,第2次大戦後は勤労青少年の教育機会の保障という観点から,正規の学校卒業資格を与える道を含めて普及した。現在では,テレビ・ラジオ放送の利用も進められている。一般に郵便,放送による教育のほかに,一定期間面接して指導するスクーリングの方法がとられている。戦後の一時期,旧学制から新学制への移行として中学通信教育が行われたが,現在では意味を失っている。したがって大学通信教育,高等学校通信教育,社会通信教育の三つに大別することができる。
学校教育法に基づき1950年に初めて6大学に認可され,その後拡充されて,2007年度現在法政,慶応など40大学に約24万人が,大学院では23校に約8800人が,短期大学では9校に約2万5000人が在籍している。大学卒業に必要な総単位数の一部をスクーリングで補えばその大学の卒業資格を得られる。また,教員免許法上の単位認定通信教育としても広く利用された。1950年から60年にかけて,教員を養成する国立の大学学部においても免許法に基づく教員再教育のための通信教育を実施し,延べ50万人の教員に延べ250万単位を認定したとされる。61年ラジオによる大学通信教育講座,65年テレビによる講座がはじまり,放送を利用する通信教育実施大学では放送講座により単位認定を実施している。81年には放送大学学園法が成立し,生涯教育の中枢を占める教育機関として放送大学が設置された。
学校教育法に位置づけられている。1948年新制高校の発足とともに,全日制や定時制の高校へ進学できない青少年に対して教育の機会均等を保障するために,定時制との二重学籍のもとに一部科目について実施され,53年〈高等学校の定時制教育及び通信教育振興法〉の成立により面接指導を加え,55年からは通信教育だけで卒業資格を取得できるようになった。4年間で高校を卒業するためには年間20日程度の面接指導と試験のための学校出席が必要である。一方,放送による高校通信教育は1951年日本放送協会によって開始された。57年通信教育講座視聴による面接指導時数の減免措置も導入,60年にはテレビ講座が開講され,63年全科目の通信教育講座が実施された。1961年学校教育法改正により全日制,定時制と並んで通信制の課程が独立に認められ,通信制高校と技能教育施設との連携および広域通信制高校などが実施されるにいたった。これにより63年に日本放送協会学園高校(NHK学園高校)が発足,64年には科学技術学園高校が発足した(1973年閉鎖)。2007年度現在,高校通信教育課程は公立74校,私立118校に置かれ,約18万人が在籍している。
各種職業教育教養コースがあり,社会教育法により一定の基準に合ったものを文部省が認定する制度と,まったく自由に実施されているものとがある。文部省認定の社会通信教育は,社会教育を進めるうえで奨励するに足る内容のものについて公認される。課程としては,事務系(経営,コンピューター,印刷出版,速記,秘書,レタリングなど),技術系(電気,建築,測量,自動車,冶金,農業など),生活技術教養系(和裁,洋裁,編物,料理,語学,書道,音楽など)がある。1967年技能審査の認定に関する規定が定められ,認定社会通信教育によって修得した技能の審査認定が公認されるようになった。今後,生涯教育への関心が高まるなかで,いっそう通信教育の重要性が増すものと考えられる。
→放送教育
執筆者:山田 昇
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