消化管憩室・憩室炎

内科学 第10版 「消化管憩室・憩室炎」の解説

消化管憩室・憩室炎(消化管・膵・腹膜の疾患)

定義・概念
 憩室diverticulum)は消化管壁の一部が囊状に腸管外に突出したものである.憩室が多発する場合,憩室症(diverticulosis)という.憩室の発生部位別頻度は大腸憩室が最も多く,ついで十二指腸に多く認める,食道や胃,小腸の順でまれになる.大半の憩室は無症状で臨床上問題にならないが,炎症(憩室炎,diverticulitis)や穿孔出血(憩室出血)などを起こした場合,憩室関連疾患(diverticular disease)として臨床的に問題となる.近年では大腸憩室炎や大腸憩室出血が増加して臨床上問題となっている.
分類・成因
 発生部位により分類される(大腸憩室,食道憩室など).発生時期により先天性(Meckel憩室など)と後天性(大腸憩室など)に分類される.また,組織学的構造により憩室壁がもともとの消化管と同じ粘膜から漿膜まで全層を保持している真性憩室と筋層を欠く仮性憩室に分類される.発生機序から消化管内圧による圧出性憩室と外部から炎症などで牽引され生じる牽引性憩室に分類されるが,通常前者は仮性憩室で後者は真性憩室であることが多い.通常臨床で問題となる憩室は後天性の仮性憩室が大半を占める.
1)食道・胃憩室:
a)咽頭食道憩室(Zenker憩室):咽頭食道移行部直上の後壁に生じ,下咽頭収縮筋下縁と輪状咽頭筋上縁との間から突出する圧出性仮性憩室. b)中部食道憩室(Rokitansky憩室):気管分岐部に,多くは結核性リンパ節炎による瘢痕収縮で食道壁全層牽引されて生じる牽引性憩室.食道憩室の中では最も頻度が高い. c)横隔膜上憩室:胸部食道の横隔膜上10 cm以内に発生し,食道の蠕動運動や食道下端の内圧亢進により形成される圧出性憩室. d)胃憩室:噴門部小弯側に好発する後天性の仮性憩室.まれである.
 比較的まれでいずれも無症状のことが多い.非常にまれだが憩室に起因する通過障害や悪心・嘔吐が強いときや合併症があるときは外科的治療を行う.
2)十二指腸憩室:
剖検例の15%に認められ大腸についで頻度が高く,ほとんどは後天性の仮性憩室である.75%が下行脚で,その大半が乳頭部近傍にある傍乳頭憩室である.一般には無症状であるが憩室炎や出血,穿孔などの合併症がまれに起こり,大きな傍乳頭憩室では乳頭部を圧迫して閉塞性黄疸,胆管炎・膵炎を発症するLemmel症候群(傍乳頭憩室症候群)を起こすことがある.憩室炎への治療は抗菌薬投与,憩室出血には内視鏡的止血術が行われる,Lemmmel症候群における閉塞性黄疸に対しては内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage:ENBD)などによる内視鏡的減黄術を行う.穿孔例などには外科的治療を行う.
3)小腸憩室:
a)空腸・回腸憩室:多くは腸間膜付着側に発生する仮性憩室であり,非常にまれであると考えられていたが近年小腸の検査法の普及により偶然認められることが多くなった.
b)Meckel憩室:回腸末端から口側1 m以内に認められ腸間膜付着部対側にみられる胎生期の卵黄囊の遺残からなる比較的まれな先天性の真性憩室である(剖検例の2%)(図8-8-1).合併症は,①卵黄囊管などの遺残が索状物として臍と腸管を繋いで残っているためにそこを起点とした腸閉塞が最も多く,②憩室炎,③腸重積,④胃粘膜の迷入による異所性胃粘膜潰瘍による出血,⑤穿孔の順である. 消化管出血は腹痛を伴わない暗赤色下血である.診断は上部および下部消化管内視鏡検査を行い異常がないことを確認して出血源が同定できない消化管出血(obscure gastro-intestinal bleeding:OGIB)として扱う.OGIBの原因精査のため小腸内視鏡検査を行い出血源の同定をする.異所性胃粘膜の証明のために99mTcシンチグラフィを行うが欧米に比べわが国では胃粘膜の迷入頻度が低い.出血の治療には酸分泌抑制薬(H2受容体拮抗薬やPPI)もある程度有効であるが,基本は合併症を認めたら憩室切除術を行う.予後は良好である.
4)大腸憩室:
大腸憩室は大腸の粘膜が,固有筋層の抵抗の弱い血管貫通部を通じて囊状に壁外に突出した仮性憩室である.大腸憩室は「西欧文化の病」といわれ,元来は欧米や豪州に多くアジア・アフリカには少ないとされてきたが,近年わが国でも増加してきており,憩室出血や憩室炎,憩室穿孔などの合併症が増加してきている.これら大腸憩室性疾患が臨床上重要である.
 成因としては線維分の少ない精製された食品の摂取に伴い腸管の分節運動を増加させることで,分節部の腸管内圧が増加し,壁の物理的脆弱部から粘膜が圧出され形成されると考えられている.
 大腸は虫垂と直腸を除くと小腸とは異なり,外縦筋が消化管壁全周を覆うことなく3本の結腸紐で覆われるのみであり,外縦筋がないところが物理的に脆弱である(第一の脆弱部).さらに筋層の血管貫通部にも脆弱性があり(第二の脆弱部),結腸紐間で腸間膜付着部側の4カ所の血管貫通部に憩室が好発する(図8-8-2).したがって外縦筋のある直腸,小腸には大腸と比較すると仮性憩室はできにくい.
 わが国では約20%に大腸憩室症を認め,頻度は年齢とともに増加し,40歳以下では10%以下であるのに対し80歳以上になると約70%が大腸憩室を有するとされる.やや男性に多い.また局在については,欧米ではS状結腸を中心とした左側型が非常に多いが(90%),わが国では上行結腸を中心とした右側型が多い(60%),しかし近年,わが国でも左側型,両側型が増加してきている.
臨床症状・診断
 憩室患者のほとんどは無症状のままであるが,検診などで施行した大腸内視鏡などで発見される(図8-8-3). 大腸憩室で臨床上重要なのは憩室炎・出血・穿孔の3大合併症であり,近年合併症の増加に加え重症例が増加してきている.
 憩室出血の特徴は痛みなどの腹部症状を伴わない突然の暗赤色から鮮血便の下血である.約80%は自然止血するが5%程度は大量出血である.出血部位は右側に多い.憩室出血のリスク要因として抗血小板薬の投与,高血圧や虚血性心疾患の合併,両側憩室症例などが考えられている.治療は自然止血を待つことなく,全身状態が許せば大腸内視鏡を行う.出血点が同定できれば内視鏡的止血術(クリップ法や局注法)を行う.多くの場合内視鏡では出血部位の同定ができないので保存的治療を行い自然止血を待つか高濃度バリウムの結腸内充填療法を行う.動脈性出血の場合は血管造影による塞栓術を行う.
 憩室炎はわが国では右側に多いが,穿孔や死亡などの重症例および再発例は左側に多いとされる.臨床症状は発症時より移動性のない下腹部痛で,このため右側憩室炎では虫垂炎との鑑別を要する.微熱や白血球増多を認める.急性期の診断にはCT検査や超音波検査が行われる.CTは感度特異度が高く憩室炎を憩室周囲の脂肪織の混濁(dirty fat sign)や憩室周囲の腸管壁の肥厚として的確に診断できる(図8-8-4). 治療は入院の上,絶食・補液・抗菌薬投与を行う.膿瘍形成や穿孔した場合は手術対象となる.穿孔例ではステロイドやNSAIDsを使用していると重篤化することがある. 高齢者の憩室穿孔は予後不良例が多いとされる.
予防
 憩室炎や憩室出血の危険因子として,肥満や高血圧など生活習慣病の関与が報告されており,これら合併症の予防には,繊維質の食事,運動や減量,血圧のコントロールなどが望ましい.[中島 淳]
■文献
Heise CP: Epidemiology and pathogenesis of diverticular disease. J Gastrointest Surg, 12: 1309-1311, 2008.
Matsuhashi N, Nakajima A: Barium impaction therapy for refractory colonic diverticular bleeding. Am J Roentgenol, 180: 490-492, 2003.
Suzuki K, Nakajima A, et al: Risk factors for colonic diverticular hemorrhage: Japanese multicenter study. Digestion, Digestion, 85: 263-272, 2012.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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