家庭医学館 「大腸憩室症」の解説
だいちょうけいしつしょう【大腸憩室症 Diverticular Disease of the Colon】
大腸の内壁の一部が外側に向かって飛び出し、袋状になったものです(図「大腸憩室」)。ふつうは無症状ですが、憩室部に炎症や出血をおこすことがあります。
大腸憩室症は欧米人に多く、日本人にはあまりみられませんでしたが、最近は増加して、10人に1人以上の頻度でみつかります。とくに都市部の人に多く、食事の欧米化、とくに食物繊維の摂取量の減少と密接な関係にあると考えられています。
食物繊維の少ない食事は大腸の運動を亢進(こうしん)させ、内圧を高くします。腸内圧が高くなると、大腸壁の筋肉層の弱い部分から粘膜(ねんまく)が脱出して大腸憩室が生じると考えられています。実際に、憩室のできやすい場所は、血管などが腸壁を貫いて筋層が弱くなっている部分なのです。
また、憩室は、日本人では盲腸(もうちょう)や上行結腸(じょうこうけっちょう)など、大腸の右側に多くでき、欧米人では大腸の左側に多いという傾向があります。しかし、食事の欧米化や高齢化にともない、日本でも大腸左側の憩室が増えています。
[症状]
通常は無症状ですが、憩室炎(けいしつえん)をおこすと腹痛の原因となったり、出血することがあります。
腹痛は、憩室の位置によって、腹部のどの場所にもおこります。虫垂炎(ちゅうすいえん)のように、初めは鈍痛ですが、しだいに局所の鋭い痛みとして感じられ、歩いたりからだを動かすとひびきます。
下血(げけつ)は鮮紅色から暗赤色で、腹痛はともなわないこともあります。
[検査と診断]
多くの場合、検査で偶然発見されます。たとえば、バリウムを飲んで食道・胃・十二指腸(じゅうにしちょう)の造影検査を受け、その数日~数週間後に腹部のX線検査を受けたときに大腸の憩室に残ったバリウムがみられ、憩室の存在がわかったりします。また、大腸の注腸X線検査や内視鏡検査を受けたときに偶然発見されることもよくあります。
憩室炎をおこしているときは、まず治療を優先させ、症状がなくなってからX線や内視鏡で診断を確定します。
[治療]
たとえ憩室がたくさんできていても、症状がなければ治療は必要ありません。
憩室炎をおこしたり、出血があるときは、鎮痛薬、抗生物質、止血剤が使用されます。
また、穿孔(せんこう)といって、憩室に孔(あな)があくことがあります。こうなると腹膜炎をおこして、緊急に手術しなければなりません。
また、何度も憩室炎をくり返すと、大腸が細くなり、便やガスの通過が悪くなることがあります。このような場合は、便秘や腹部の膨満感が続くため、手術で細くなった大腸を切除することがあります。