消火設備(読み)しょうかせつび(英語表記)extinguishment facilities

改訂新版 世界大百科事典 「消火設備」の意味・わかりやすい解説

消火設備 (しょうかせつび)
extinguishment facilities

建物の火災消火延焼防止に用いられる設備の総称。消防法により建物種類別,構造別,建物の大きさ別(延べ面積別),収容人数別にその設置が義務付けられている。

 手動消火設備としては,消火器および簡易消火用具(水バケツ,乾燥砂など)のように,火災のごく初期において人の手で操作して消火作業を行う初期消火器具と,初期消火器具で消し止められる段階を越えて燃え広がったとき,消防隊が到着するまでの自衛消防を目的とした消火栓設備がある。後者水源貯水槽,加圧送水装置(ポンプ),送水配管,放水部にあたるホースノズルを格納する消火栓箱などよりなっており,消火栓の設置間隔,水源の貯水量,ノズルよりの放水量,圧力は法で規定されている。消火栓の操作方法には手動式,半自動式,全自動式があるが,全自動式はホースを引きのばすだけで自動的にポンプが起動するとともに消火栓弁の開栓も行われるので,1人で放水できる。消火器および簡易消火用具はポンプのような動力源をもたないが,火災の際真っ先に取り扱うものなので,常時その能力を発揮するよう維持管理に努めることがとくに重要である。

 自動消火設備にはスプリンクラー設備,水噴霧消火設備泡消火設備,二酸化炭素消火設備,ハロゲン化物消火設備粉末消火設備がある。スプリンクラーは一般建築物の普通火災(木材,紙,繊維などのふつうの可燃物の火災)の消火に適したもので,百貨店,商店街など不特定多数の人が集まる建築物の天井などに設けられ,火災時に自動的に水を噴出する。水噴霧消火設備は,圧力をかけた水を噴霧ヘッドより微細な粒子にして拡散放射して消火する設備で,消火原理は表面冷却作用,生成水蒸気による空気遮断作用および乳化作用による。ガス状および液状の引火性物質や変圧器,油遮断器などの油入り電気機器の消火に適し,火災の抑制,延焼の防止,出火予防に有効である。外壁の延焼防止に用いられるものはドレンチャーと呼ばれている。いずれも一般に火災感知器あるいは感熱部から信号などにより開放弁をあけ,加圧送水装置を起動し,自動的に噴霧ヘッドより噴霧状に水を放水する。泡消火設備は,泡消火薬剤を水に混入して泡を発生させ,泡の累積効果による空気遮断と泡膜に含まれる水の冷却効果によって消火を行うものである。泡は立体的な物でもその表面に粘着するので,駐車場の自動車,飛行機格納庫,危険物貯蔵タンクなどの消火に用いられる。水源,起動装置を含む加圧送水装置,自動警報装置,泡消火薬剤混合装置,泡放出口と泡原液タンクよりなり,混合装置には数種の方式がある。また泡原液には経年変化により変質するものがあるのでその取扱いには注意を要する。二酸化炭素(炭酸ガス)消火設備は,炭酸ガスの放出により酸素濃度を燃焼範囲以下にするとともに,ボンベに入っている液化炭酸ガスが放出の際気化熱を奪うことによる冷却効果を利用して消火を行うものである。装置は液化炭酸ガスボンベと起動装置,配管,噴射ヘッドなどよりなる。放出消火にあたってはある一定区域全域に放出する方式と局所に限って放出する方式およびホースをリールにまきつけて移動できる移動式がある。他の消火方法では十分消火しにくい対象物,あるいは水などを使用すると消火後対象物が使いものにならなくなるような場合に使われ,油関係,ボイラー室,電気室,電算機室,駐車場などの消火に適している。ハロゲン化物消火設備は,ハロゲン化物による空気の供給遮断と燃焼室中の酸素濃度の希釈およびハロゲン元素の燃焼不活性化作用によって消火を行うもので,ハロゲン化物には毒性のないハロン1301(一臭化三フッ化メタン)がもっとも多く用いられ,液化ガスの形で高圧ボンベにつめられている。装置,対象火災は炭酸ガス消火設備とほぼ同様であるが,消火剤量は炭酸ガスの場合より少なくてすむので,配管も細くてよい。反面,消火剤が高価なので,採用には検討が必要である。粉末消火設備は,重炭酸ナトリウム,重炭酸カリウムなどの粉末消火剤を放出するもので,引火性液体の火災のように急速に拡大する表面火災の消火に有効である。消火原理は粉末が熱分解して生成する二酸化炭素による消火および燃焼速度抑制化学作用(負触媒作用)などと考えられているが,理論が確立されていない。粉末は電気の不良導体であるため,通電している装置などにも有効である。貯蔵容器中の粉末消火剤を,不燃性ガスの圧力で固定された粉末噴射ヘッドまたは移動ノズルより消火対象物などに放出して消火する。放出には全域,局所,移動の3方式があり,適用消火対象は自動車車庫,駐車場,通信機器室,電気設備室,第4類の準危険物などである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「消火設備」の意味・わかりやすい解説

消火設備
しょうかせつび

水あるいはその他の消火剤を用いて消火を行う機械器具および設備のこと。初期消火設備と消防隊使用設備に大別される。

 初期消火設備には、各種消火器および水バケツ、水槽、乾燥砂などの簡易消火用具や屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備、二酸化炭素消火設備、ハロゲン化物消火設備、粉末消火設備、屋外消火栓設備があり、消防隊使用設備には、連結送水管設備、連結散水設備がある。これらの設置個所には、定められた標識を設けなければならない。消火設備のなかでとくに重要な位置を占めているのは水を用いる設備である。水は普通どこにでもあって、安価で使用法が簡単なうえに、その冷却効果、窒息効果は他の薬剤よりはるかに優れており、使用法に注意すればもっとも優秀な消火剤となる。消火設備に関する規定は消防法施行令に掲げられている。

[岸谷孝一]

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百科事典マイペディア 「消火設備」の意味・わかりやすい解説

消火設備【しょうかせつび】

火災を鎮(しず)め延焼を防ぐための設備。消防法によってこれに関する基準などが定められている。種類としては,火災の初期に用いる各種の消火器,屋外・屋内の消火栓(せん),消火器で消火できなくなった火災に用いる動力消防ポンプやスプリンクラー,水槽・バケツ・砂などの簡易消火用具があり,そのほか危険物など特殊可燃物の火災に用いられる水噴霧消火設備,泡(あわ)消火設備,不燃性ガス消火設備,蒸発性液体消火設備,粉末消火設備などがある。
→関連項目ドレンチャー

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