改訂新版 世界大百科事典 「湿潤地農業」の意味・わかりやすい解説
湿潤地農業 (しつじゅんちのうぎょう)
高温多湿で降水量が蒸発散量をうわまわる地帯で営まれる農業。主としてアジアのモンスーン地帯に分布する。年降水量500mm以下の地域の乾燥地農業と対比される。モンスーン地帯では1年が規則的に雨季と乾季に分かれるが,雨季に当たる5月から9月は高温多湿で植物の生育はきわめて旺盛である。植物の生育に好適であるということは,作物と同時に雑草の生育もまた旺盛となることを意味し,作物が雑草に圧倒されて収穫皆無になることすらある。したがって除草という作業が不可欠で,中耕除草が栽培管理の中心に位置づけられる。また高温多湿の条件は病害虫の発生をも促すので,その防除も必要とされる。このような気候条件は,家畜の成育にとっては必ずしも好適ではなく,良好な牧草もないので,農業は家畜との結びつきが弱い。湿潤地農業の主作物はイネで,モンスーン地帯は世界の稲作面積の大部分を占めている。イネは他の穀類に比較して単位面積当りの収量が高く,連作が可能であるので,湿潤地農業の行われる地域の人口密度は高い。畑作としては,乾季の水田跡あるいは台地・高原などでトウモロコシなどの穀類やマメ類が栽培されている。またヤムイモ,タロイモなどを中心とする根栽農耕が焼畑農業として行われ,一方,プランテーション農業としてゴム,アブラヤシなどが企業的に栽培されている。しばしば雨季には洪水,乾季には干ばつの被害を受けるので,生産を安定化し高めていくためには,灌漑排水施設を備えることが不可欠である。
執筆者:石原 邦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報