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漢方の食事で元気になる かんぽうのしょくじでげんきになる

食の医学館の解説

かんぽうのしょくじでげんきになる【漢方の食事で元気になる】

《漢方の由来》
 およそ2500年の歴史をもち、わが国でも古くから用いられている漢方医学は、西洋医学とならぶ、医学の主要体系です。
 漢方という名前は、中国の後漢(ごかん)の時代に書かれた『傷寒論(しょうかんろん)』によって、その体系がほぼ完成されたことに由来します。この『傷寒論』の考え方を中心とするグループが、江戸時代中期から活躍しており、明治時代以降に広まった西洋医学と区別する意味で、中国渡来の医学を「漢方」と呼ぶようになりました。つまり、漢方の名が使われるようになったのは、明治に入ってからというわけです。
 漢方医学の基礎は、前述の『傷寒論』と、それ以前に書かれた『素問(そもん)』の2書にもとづいています。『素問』で述べられたおもな内容は、生理学と養生法(ようじょうほう)、鍼灸(しんきゅう)治療について。そして、『傷寒論』では傷寒病、すなわちコレラやチフスなどの急性熱病にかかった場合の、対処法と治療法が述べられています。現在、日本の漢方における中心的立場を占めているのは、この『傷寒論』の理論です。
《細菌撃退の西洋医学、人体活力を増進させる漢方》
 一方、西洋医学も19世紀ころまでは薬草による治療が主体でしたから、見た目のうえでは漢方医学とあまりかわりませんでした。しかし、19世紀後半に入って科学が発達し、細菌や細胞に関する研究がすすむと、医学体系に大きな変化が生じます。
 すなわち、細菌感染に対する予防衛生の観念が広まり、さらに抗生物質が発見されて、細菌による疾患治療の中心的役割をになうようになったのです。このことは細菌感染の減少に大きく役立つとともに、漢方医学との決定的なちがいを生む要因になったといっていいでしょう。
 両者の最大の相違点は、西洋医学が病気の原因である細菌に的を絞り、それを殺すことに主眼をおくのに対して、漢方医学では病原菌への攻撃より、人体の活力を増進させることに主眼をおくこと。つまり、体の抵抗力を高め、細菌に打ち勝つことができれば、細菌を殺す成分がなくとも病気は治るというのが、漢方医学の考え方なのです。この考えは、現代の免疫学に通じるものでもあります。
 西洋医学は方法論として非常に合理的な反面、最近問題となっている耐性菌を生みだしました。細菌は生き物ですから、抗生物質と戦いを続けるなかで淘汰され、より強力なものに進化していきます。そうして生まれた耐性菌は、いまや抗生物質の開発よりも速いスピードで、成長するようになったともいわれます。
 さらに問題なのは、細菌と抗生物質が強くなるなかで、両者の戦いの場である人間の体の強さはかわっていない、むしろ年々活力が衰えている点。その結果が、副作用として現れることがふえているのです。
 漢方薬にも副作用がないわけではありませんが、人体の活性化に主眼をおいているので、基本的に作用のしかたがやさしいのが特徴です。また、体の状態をもとに処方するため、細菌の種類を問わない点も、大きな長所にあげられるでしょう。
《漢方医学の病気に対する概念》
 このように人の体の状態に視点の中心をおく漢方医学では、人が病気になる原因を「先天(せんてん)の気」や「後天(こうてん)の気」とのかかわりに求めています。「先天の気」とは、両親からもらった遺伝的な要素のこと。アレルギー体質や、高血圧、リウマチ、糖尿病になりやすい体質も「先天の気」です。
 一方「後天の気」は、人が生きていくなかでかかわってくるさまざまな要素で、以下の3つに大別されます。
〈精神的要因〉
 漢方では、七情、つまり喜・怒・憂・思・悲・恐・驚という7つの感情が度を越すと、腎(じん)・肺・脾(ひ)(膵臓(すいぞう)のこと)・心・肝の五臓(ごぞう)の働きに影響がでると考えています。たとえば、過度の喜びは心臓に、怒りは肝臓に、なにかにこだわって思い続けることは膵臓に、憂うつと悲しみは肺に、恐怖と驚きは腎臓に、それぞれ悪影響をおよぼすというわけ。ちなみに、西洋医学の研究でも孤独な人ほどかぜをひきやすいとか、子どもの場合、成長が悪くなるといった影響が認められています。また、不眠症(ふみんしょう)や円形脱毛症(えんけいだつもうしょう)、胃潰瘍(いかいよう)、胆石(たんせき)、子どものチック症など、精神的要因で起こる病気は少なくありません。
 こうしたストレスと免疫機構のかかわりと同様のことが、七情と五臓の関係にもみることができます。
〈食生活による要因〉
 漢方医学では2000年前に書かれた『素問』の時代から、食と七情と病気のかかわりについて論じています。特定の味をかたよってとると、特定の臓器を痛め特定の感情を高ぶらせるというのです。たとえば「鹹(かん)」、つまり塩辛いものを食べすぎると腎臓に悪影響があり、腎臓が弱ると恐怖を感じやすくなる。逆に、恐怖に長くさらされると腎臓を弱め、腎臓が弱くなると塩辛いものを好むようになるというわけ。また、甘味は膵臓とかかわりがあるとされます。
 こうした味と臓器の関連は、西洋医学でも塩分と腎臓病、糖分と糖尿病といったかたちで解明されつつありますが、歴史に裏打ちされた漢方のそれにはまだまだおよびません。
〈外部的要因〉
 細菌やウイルス、大気汚染といった外敵、気候、住環境などを指し、なかでも重視されるのが、漢方でいう六淫(ろくいん)。つまり、風・寒・暑・湿・燥・火という6つの気候の変化です。たとえば、寒い時期にかぜが流行するのは、乾燥によって鼻やのどの粘膜(ねんまく)の抵抗力が弱まる一方、かぜのウイルスは乾燥した状態で活発になる性質をもっているためです。
 こうした先天の気、後天の気のさまざまな要素がからみ合うなかで、人がもつ生気(せいき)(=体の抵抗力、生理的なバランスなどの要素)が衰え、病邪(びょうじゃ)(=すべての病因の総称)に負けてしまうと、病気が起こるわけです。
《漢方医学の治療法》
 さて、実際に病気となった場合の漢方医学による治療法というと、すぐに思い浮かぶのが漢方薬でしょう。しかし、そのほかにも鍼灸(しんきゅう)やあんま、導引(どういん)、薬膳(やくぜん)といったものが漢方の治療法に含まれます。それらの大まかな内容は以下のとおりです。
〈湯液(とうえき)療法〉
 漢方薬による治療で、古くは煎(せん)じ薬を用いていたことから、この名前があります。現在では抽出エキスを使った薬もこれに含まれます。
 ちなみに民間薬と呼ばれるものも、その原料をたどれば多くは漢方薬の仲間です。両者のちがいは、漢方薬が複数の生薬(しょうやく)を組み合わせ、体質や症状などを加味した厳密な処方で用いられるのに対し、民間薬は1つ1つの薬(ドクダミやゲンノショウコなど)を別個に、症状に対して大ざっぱに使うことが多い点にあります。
〈鍼灸療法〉
 鍼(はり)と灸を用いたツボ治療で歴史の古いものです。とくに灸療法は古く、かの「孟子(もうし)」にも登場するほど。具体的には体表にあるツボを鍼や灸で刺激し、経絡(けいらく)を流れる気を動かして内臓や他の器官の調和をとります。
〈あんま療法〉
 手によってツボを刺激して気を動かし、体の調和をとる治療法。西洋のマッサージに似ていますが、こちらはツボや、気の流れ道である経絡を重視して施術(せじゅつ)するのが特徴です。
〈導引法〉
 最近では気功療法と呼ばれることも多い治療法。呼吸法を中心にゆったりした運動を加え、体内の気をめぐらすことを目的にするものです。
〈薬膳療法〉
 薬膳という言葉は意外に新しいもので、1980年に、中国四川省(しせんしょう)の同仁堂薬舗によって初めて用いられました。しかし、その考え方の起源は古く、約3000年前の周の時代にまでさかのぼることができます。
 薬膳療法の基本は、文字どおり食事を医療に結びつけることにありますが、その段階によって、食養、食療、薬膳の3つに大きくわけられます。
<食養(しょくよう)法>
 これは日ごろから自分の体質に合わせて食事のバランスをとることで、病気を予防するもの。たとえば、冷え症の人が冷たい食べものを避け、なるべくあたたかくて、消化のよいものをとるといったことが、その例です。
<食療(しょくりょう)法>
 俗に薬食同源(やくしょくどうげん)といわれるもので、食品のなかの薬的な側面をフルに生かし、食べもので体調の不良を治す方法です。たとえば、強い利尿作用をもつアズキの最初のゆで汁を、むくみの改善に利用したり、ショウガを吐(は)き気(け)止めに使ったりするのは、すべて食療の考えにもとづいた処方です。
<薬膳法>
 食療にもとづいた料理に、さらに純然たる漢方薬を加えたもの。より強い効力をもち、食療では対処できない症状の場合に用いられます。
 そして、これら三段階の薬膳療法を用いても改善しない場合、湯液療法を行うのが漢方治療の基本。無論、湯液療法を行っているときも、薬膳療法を行うことが重要です。
《薬膳療法の基礎》
 このようにさまざまな種類のある漢方療法ですが、私たちの日常生活にもっともかかわりが深く、また取り入れやすいのが薬膳療法の食養と食療でしょう。漢方の聖典『素問』においても、食養は健康維持と病気の治療に、欠くべからざる重要な問題として取り上げられています。そして、具体的に食べものを健康のために用いる場合、たいせつになるのが五味(ごみ)と五気(ごき)の取り合わせです。
 この五味とは酸・苦・甘・辛・鹹(かん)(塩辛さ)という5つの味のこと。五気とは食べもののもつ性質を表す、熱・温・平・涼・寒のことです。
 五味は前述した五臓(腎臓・肺・膵臓・心臓・肝臓)の働きと深くかかわり、酸味は肝臓、苦味は心臓、甘味は膵臓、辛味は肺、塩辛さは腎臓に、それぞれ対応すると考えられています(「関連データ・表1」参照)。そして、1つの味をかたよってとりすぎれば、五臓に悪影響があることは、病気に対する概念の「後天の気」でも述べたとおり。
 また、五味にはそれぞれ特定の作用があり、酸味は収れん作用で筋肉をひきしめる、苦味は下痢の便など、やわらかくなりすぎたものをかたくする、甘味は滋養に役立つとともに緊張を弛緩(しかん)する、辛味はつまった気の発散、発汗をうながす、塩辛さはかたいものをやわらかくする、といった効果を発揮します。
 一方の五気も、長年にわたる闘病の歴史から導きだされた漢方の経験則で、簡単にいえば、その食品が体をあたためるか冷やすかを示すものです。つまり、寒、涼に属する食品は体を冷やす作用があり、熱、温に属する食品は、体をあたためる作用をもつというわけ。寒と涼、熱と温は、その作用の程度によって区別されています。また、平は寒熱どちらにもかたよらず、変化をもたらさないものをいいます(「関連データ・表2」参照)。
 食養や食療を考える場合には、こうした五気や五味の性質をもとに、体調の不良と拮抗(きっこう)する食品を選んで用いることが基本となるのです(「関連データ・五味・五臓・五気」と「関連データ・主な食品の性質」参照)。
《あなたは「寒タイプ」それとも「温タイプ」》
 ふだんの生活に食養や食療を取り入れる際に、重要なのが、食べる人の体の状態、いわゆる「証(しょう)」の判断です。「証」のとらえ方は、かなり複雑な要素を含んでおり、専門知識がないとむずかしいのですが、一般の人が考える場合には、便宜的にもっとも基本的で重要な、寒証(かんしょう)と熱証(ねっしょう)の判断に頼るのがいいでしょう。
 おおざっぱにいうと、顔色が青白くて寒けを感じやすく、尿の量は多めで透明というタイプの人が寒証です。一方、顔色が赤く、尿が少なめで便秘(べんぴ)をしやすいタイプが熱証の人です(「関連データ・今あなたの体質は陽性タイプ?それとも陰性タイプ?」参照)。
 そして、寒証の人は体をあたためる熱、温の食品を。熱証の人は、逆に体を冷ます寒、涼の食品を中心に、献立を組み立てるのが原則になります。
 この原則を無視しては、どんなに体にいいといわれる食品も意味をもちません。たとえば、熱証の人が精力をつけるつもりで、体をあたためる肉類などを多食すれば、体が熱をもちすぎて、不眠や貧血などを引き起こし、逆効果をまねいてしまいます。
 もし、なんとなく体が不調を感じる日が続くようなら、これまでに述べた要素をもとに、自分の食生活を見直してみるといいでしょう。
 「漢方はつかみどころがなくて、いまひとつ頼りない気がする‥‥」
 世の中には、そういう考えをもつ人は少なくありません。しかし、2500年にもわたる実践医療の積み重ねから、経験則を導きだしている漢方医学の療法は、有効性が明確で、きわめて実用性が高いのも事実なのです。ぜひ、その知識を取り入れて健康に役立ててください。

出典 小学館食の医学館について 情報

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