地球上でおこる潮汐によって海水が移動する際、海底との間に生じる摩擦力をいう。潮の干満の原因は、月と太陽が及ぼす引力の地球上の場所による差によって働く力(潮汐力)である。潮汐力は月や太陽が真上にきたとき(南中したとき)に最大となる。しかし海水と海底に働く摩擦のため満潮の時刻は月あるいは太陽の南中時刻とは一致せず、平均3~4時間遅れる。太陽や月の方向とややずれた方向に盛り上がった海水に作用する潮汐力は、地球の自転にブレーキをかける力となる。その結果地球の自転速度はしだいに遅くなり、1日の長さは100年間におよそ1000分の2秒の割合で徐々に長くなる。この自転を遅くする原因となる、海水と海底の間に働く摩擦力を潮汐摩擦という。月と地球の角運動量(回転の勢い)の和が保存されるため、地球の角運動量の減少分は月の角運動量の増加分となる。月の公転運動が加速される結果、月は緩やかな渦巻を描いて地球から遠ざかる。アポロ計画で宇宙飛行士によって月面に置かれた反射板に向けて、地球からレーザー光線を発射して往復時間を測定する実験(月レーザー測距)が行われている。それによって月と地球の距離が毎年およそ5センチメートルずつ大きくなっていることが確認されている。海洋潮汐モデルを用いて潮汐摩擦の効果を理論的に計算できるが、地球自転の減速と月の軌道変化の値はそれらの予測とおおむねあうことが確かめられている。
海洋は地球の歴史のごく初期に誕生したので、潮汐摩擦は過去数十億年の間ずっと働いてきているはずである。これは遠い過去にさかのぼると地球と月は現在よりずっと近い距離にあり、地球の自転周期や月の公転周期も短かったことを意味する。誕生まもない地球に火星サイズの天体が衝突した結果、飛び散った岩石のかけらが集積して月ができたとされている。現在の38万キロメートルに対して、生まれたての月の地球からの距離はわずか2万キロメートル余り、その後潮汐摩擦によって徐々に遠ざかってきたと考えられている。数千年から数億年前の自転速度は、古代の日食記録やサンゴ・二枚貝などの化石にみられる「年輪」と「日輪」(成長速度が1年周期や1日周期で変わることによってできる縞(しま)模様)の比較などによって推定できる。昔の大陸の配置に基づく過去の海洋潮汐モデルとこれらのデータをあわせて地球―月系の起源と進化が研究されている。
[日置幸介]
『ニール・F・カミンズ著、竹内均監修、増田まもる訳『もしも月がなかったら――ありえたかもしれない地球への10の旅』(1999・東京書籍)』▽『井田茂・小久保英一郎著『岩波科学ライブラリー71 一億個の地球 星くずからの誕生』(1999・岩波書店)』
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