土地の帰属を示すために札を立てること。これは古くからあり,《古事記》《日本書紀》に見える素戔嗚(すさのお)尊の悪行の話でもクイとかシメナワとかが土地の帰属を示すものであった。このようなことは鎌倉時代に入ると,武家領においても,寺社領においても一般に行われるようになった。しかし,その内容においてはある変化を見た。すなわち問題の生じた土地に札を立てて,それが解決されるまでは何人も立ち入ることを許さず,また年貢未進の田地に点札して年貢が皆済されるまでその土地を差し押さえるとかいう場合に〈点札(点定(てんじよう))〉といわれるようになった。室町時代に入ってこれは盛行を見た。《斑鳩嘉元記(いかるがかげんき)》に〈毛ヲ点定スル時ハ,シメヲ立テ,地ヲ点定スル時ハ,札ヲ立ツルノ条,往古ノ規式也〉とあるのは,おそらく室町期の事実の説明と考えられる。《大乗院寺社雑事記》長禄3年(1459)4月26日の条の,大市庄に点札を加えたときの記事には〈大市庄諸公事物無沙汰ノ間諸役人色々歎キ申上ルノ間,其頃一庄五町六反二十六歩ニ点札シ,神木ヲ立テオワンヌ〉とある。これは,普通の点札だけでも領主の威力を示す行為なのだが,それに神木という特殊な威力を持ち出して,点札を大いに権威づけ,必ず命ぜられるままに実行することを強制する力をもたせたのであろう。古代のシメナワが示す意味と相通ずるものがあると考えられる。
執筆者:辻本 弘明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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