寺院,神社の維持運営のために設置された所領。古代においては国家から給付される封戸(ふこ)を中心に,8世紀中ごろからの墾田開発によって出現する初期荘園が寺院経済の基盤であったが,9世紀~10世紀にかけて初期荘園の多くは没落し,封戸からの収入も11世紀後半までにはとだえてしまう。以上の事態に対処するため,中央の有力な寺院は支配組織を再編し,国家に頼らない自立した経営を目ざして,新たなる中世的な寺領の獲得をはかる。その中核となったのが,不輸不入権を有する領域性をもった荘園である。このような荘園では現地に預所(あずかりどころ)を派遣し,現地の有力者を下司(げし)などの荘官に任命し,荘民を名主(みようしゆ)に任命して,国衙の支配体制に頼らない自前の荘園経営の体制が整えられた。寺領荘園の場合,荘園領主権が本家職(ほんけしき),領家職(りようけしき)に分割されている例は少なく,そうであった場合も,領家職は寺内の院家が所持していることが多い。寺院の恒例の法会などの行事用途や寺僧の給分は寺領荘園からの収入によって賄われたが,臨時の造営費用は国家的事業として国家から給付された知行国や関からの収入によって賄われた。14世紀ごろになり遠隔地荘園が武士によって侵略されると,その事態に対応するため,寺院は膝下の寺領の直務支配体制を強化し,田畠の地主職,作主職等の加地子得分の集積に力を注ぐようになる。以上のような寺領のあり方は,荘園,御厨(みくりや),御園(みその)等を社領とする神社においても指摘しうるが,神社の場合,社領が個々の社家の家領として分割されている例が多い。中央の大寺社の末寺末社となる地方の有力寺社の場合は,一国規模に展開する荘園や公領の保・名,および荘園公領内部に置かれた給免田など種々の所領をもっているが,その経営は国衙の支配体制に依存する場合が多い。その後室町時代を通じて荘園制が衰退するのにともない,寺社領も減少の一途をたどった。そして戦国期にわずかに存続した寺社領も,近世では検地によって完全に把握され,幕府や諸藩によって朱印地等として一部が恩給されたにすぎない。
→寺社本所領
執筆者:稲葉 伸道
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…公家にはすべて,寺社に対しては徳川家2~3代の朱印状所持は全部,1代のみは50石以上に,寺領がなく境内ばかりの朱印状であっても一宗の本寺には朱印状が頒布された。奉行は,大名領は小笠原長矩・永井尚庸,公家領は稲葉正則,寺社領は井上正利・加々爪直澄,符案と訂正は右筆支配久保正之らが行った。発給をうけた大名219通,公家97通,門跡27通,比丘尼27通,院家12通,その他の寺院1076通,神社365通,その他7通,合計1830通に及んだ。…
…南北朝期になって室町幕府により使用され定着する法律用語。武家領に対置される寺社領・本所領の荘園・国衙領を指す。この場合の本所領は具体的には天皇家・摂関家等の公家領のことであるが,本来は寺社領をも包含して使用された用語である。…
※「寺社領」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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