( 1 )絵を枕の下に敷く風習は室町時代に既に行なわれていたとされる。宮中では悪夢を食うという「獏」の字を帆に描いたものが配られた。古くは除夜あるいは節分の習俗で、災厄を払う意味が本来であったらしい。
( 2 )現存最古とされる絵柄は船に稲穂のみを描いたものであるが、近世中期に入ると、七福神が金銀・米俵を満載した船に乗る絵柄によって吉夢を祈願する習俗が流行。宝船と七福神の組み合わせは流行の歌謡などでも定型となり、海のかなたへ災厄を流し去ると同時に、そこから福徳がもたらされるという他界観がより濃厚となる。
正月の縁起物の一つ。帆掛け船に米俵や宝物を乗せ七福神が乗り込んだ絵に、「なかきよのとをのねふりのみなめさめなみのりふねのをとのよきかな」という回文(かいぶん)歌が書かれている。これを正月2日の夜、枕(まくら)の下に置いて寝ると吉夢をみるという。古くは除夜の晩とか元日とか、または節分の夜とかにされていたが、今日では正月2日とされている。江戸時代から明治時代にかけて、「お宝お宝」といってこの絵を売り歩く宝船売りがいた。本来宝船はいまと違って、宝物や七福神を乗せたものでなく、旧年来の災いを船に乗せて流すもので、そのあと節分に吉夢をみるのであった。七福神は大黒天、恵比須(えびす)、毘沙門天(びしゃもんてん)、弁財天、福禄寿(ふくろくじゅ)、寿老人、布袋和尚(ほていおしょう)とされているが、現代のように定められるまで、いろいろと異説があった。宝船の歌については、『和訓栞(わくんのしおり)』に、聖徳太子が秦河勝(はたのかわかつ)の悪夢を消し給(たも)う呪(まじな)い歌という説があるが心得がたいとある。宝船の絵については、『嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)』に『安斎(あんさい)随筆』などを引用して、古代にはなく室町時代からはみられたとある。船の帆に「獏(ばく)」という字を書くのは、中国でいう想像上の動物である獏が悪夢を食べるといわれているためである。いずれにしても、宝船よりも初夢を気にすることが古かったことは明白である。
[大藤時彦]
米俵,宝物,七福神が乗り,帆に宝と書いた船の絵で,縁起物とされた。江戸時代には,正月1日もしくは2日の夜に,枕の下に敷いて寝ると吉夢を見ることができると信じられ,お宝売と称して,〈お宝,お宝〉と叫びながらこれを売り歩く者があった。米俵,千両箱,扇子,松竹梅といっためでたい図柄が描かれ,〈なかきよのとおのねふりのみなめさめ なみのりふねのおとのよきかな〉という回文(かいぷん)(下から読んでも同じ文句)の歌が記されたものもある。喜田川守貞の《守貞漫稿》によれば,節分の夜に行われたものが,後に正月2日になったものだとされている。中世には除夜に米俵をつんだ船の絵を敷き,悪夢を見るとその絵を水に流した。また宮中では,帆に夢を食うとされる中国の想像上の動物である〈獏(ばく)〉の字を書いたものが配られており,本来は厄払いのためのものであったと考えられる。すなわち,災厄は海のかなたに流し去り,福徳もまた海のかなたからもたらされるという,海上他界観に由来する行事であろう。
→初夢
執筆者:紙谷 威廣
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…沙船の名が示すように,砂州,入江などの浅い沿海の運行に適し,安定性にも富み,また縦帆の操縦によって逆風に向かって斜行する操法をも可能にした。指南針の発明とともに遠洋航海を実現させた大型ジャンクを代表する〈宝船〉は,15世紀初め明代の鄭和(ていわ)の7次に及ぶ南洋航海のために建造されたものである。全長150m,舵軸の長さ11mで,12の帆からなる巨大な沙船の類型に属するものであった。…
…多くは神社や寺院から授けられ,正月初詣に授与される破魔矢(はまや)は,悪魔をはらい幸運を射止めるものであり,起上り小法師や達磨は,七転八起の故事から出世を約束される縁起物である。また正月2日の夜,社寺から授与された宝船の図を枕の下に入れて寝ると吉夢を見て,幸運を招来するという。この宝船にはよく近世の流行神(はやりがみ)の典型である七福神をのせているが,それは幸は海上の彼方からやってくるという海上他界の観念に基づくものである。…
…もともとは粥柱や粥杖(かゆづえ)などに由来し,削掛けの技術の衰えとともにホダレ(穂垂),繭玉,稲の花などに分化発展したものといわれている。餅花の大きな枝にはいっしょに農具や小判,宝船などをかたどっただんごやミカンがつけられることもあり,石臼や米俵を台にして神棚をまつる部屋に立てられる。これとは別に小枝に数個のだんごや餅をつけて屋内外の神々に供えることもある。…
※「宝船」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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