11月の酉の日に行われる鷲(おおとり)神社の祭礼。古くは「酉のまち」といい、「お酉様」と称して親しまれている。「まち」は祭りの意。鷲神社は日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀(まつ)り、開運、商売繁盛の神として信仰され、本社は大阪府堺(さかい)市の大鳥神社とされているが、関東の鷲神社との関係は明らかでない。関東では埼玉県久喜(くき)市の鷲宮(わしのみや)神社が本社で、古くからこの社(やしろ)を中心に酉の日精進(しょうじん)の信仰があり、酉の市の始まりのようである。江戸時代には一時、現在の東京都足立(あだち)区花畑町の鷲神社が栄えて本酉(ほんとり)といわれ、参詣(さんけい)人がニワトリを献じて開運を祈り、終わると浅草観音(かんのん)堂に放ったという。現在はいくつもの社寺で大鳥神社を勧請(かんじょう)し酉の市の祭りをしているが、江戸時代後期からもっとも著名なのは浅草(東京都台東(たいとう)区千束三丁目)の鷲神社の酉の市である。初酉を一の酉、次を二の酉、三番目の酉のある年は三の酉という。三の酉のある年は火事に気をつけろという。当日は社から数百メートルの間、縁起物を売る露店が立ち並び、おかめの面や小判などをつけた大小さまざまの熊手(くまで)や、頭(かしら)の芋(いも)(八つ頭など)や黄金餅(こがねもち)などの土産(みやげ)物を、景気のよい売り声で売る。1000円のものなら1万両などといい、買い手は値切って買うものだともいう。
[井之口章次]
11月酉の日の鷲(おおとり)(大鳥)神社の祭礼に立つ市。この祭りを〈酉のまち〉〈おとりさま〉などともいう。露店で縁起物の熊手などが売り出されることで有名。鷲神社は武運長久の神として武士にも信じられたが,庶民の間では商売繁昌・開運の神として信仰されてきた。現在関東を中心に各所の神社でこの市が開かれているが,もとは東京都足立区花畑町(旧,葛西花又村)の鷲神社の祭りに農具を売ったところ,水商売の人々の間に金銀をかき集める縁起に関係づけて熊手が人気を博し,ここに酉の市と熊手との結びつきが始まったかという。しかし,すでに江戸時代から浅草の鷲神社の酉の市のほうが吉原などとも結びついて栄え,現在では数十万の参詣者を集め,熊手のほかお多福面,宝船などの縁起物のほか八頭(赤芽芋),黄金餅などが売られている。酉の市の縁起物は安く買うほど縁起がよいとされ,また売れるごとに威勢よく祝いの手締めを響かせている。なお,酉の日は順に一の酉,二の酉と呼ぶが,三の酉まである月は火事が多いといって用心をするという。
執筆者:田中 宣一
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…高度経済成長期以降は新宿,渋谷,池袋の副都心の発展に比べて,大型デパートが一つだけという浅草の相対的地位は低下している。現在の浅草はきわめて娯楽性の強い地区で,寺の正面の雷門と仁王門(宝蔵殿)の間の東西両側に長さ140mの仲見世と呼ばれる小間物,人形小物,雷おこしなどのみやげ品店があり,周辺は現代化が進んだとはいえ,祭りや酉の市,歳の市などの年中行事にも下町情緒が色濃く残っている。また浅草地区にはさまざまな製造卸問屋街が集まり,皮革・靴材料(浅草6丁目など),食器・ウィンドーサンプル(西浅草),神仏具(元浅草),玩具(浅草橋,蔵前),帽子・洋傘(鳥越)など,それぞれの地区をつくって存在し,すぐ西側の上野(下谷)から中央区へかけての日本最大の問屋集中地域の一部となっている。…
…《平治物語》や《源平盛衰記》には水陸の戦に鉄製の熊手が用いられたことが見える。11月の酉(とり)の市で縁起物として熊手が売られる風習はすでに江戸時代にも見られるが,当時は遊女屋,茶屋,料理屋,船宿,芝居にかかわる商売の人たちがこれを買い,一般の人たちが熊手を買う風習はなかった。熊手がものを搔きよせる用具であるところから,幸運を搔きよせる縁起に結びつけたものであるが,《高砂(たかさご)》の尉(じよう)と姥(うば)が,箒と熊手を持っており,本来は魂を搔きよせるというような神につながる意味を持っていたものと考えられる。…
※「酉の市」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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