日本大百科全書(ニッポニカ) 「特殊販売」の意味・わかりやすい解説
特殊販売
とくしゅはんばい
学術的には未確定の用語であるが、在来の販売法になかった新しい販売法のうち、どちらかといえば好ましくない効果を与えているものを総称する。法律でいえば、特定商取引法(昭和51年法律第57号)と割賦販売法(昭和36年法律第159号)に関連するものが多いが、法の間隙(かんげき)や不備をついているため、法の整備が求められているものもある。以下、その代表的なものを列挙する。
販売員が家庭や職場を巡回して商品の購入を勧誘する訪問販売(外交販売)は、それ自体は新しい販売法ではないが、勧誘の進め方、契約の方法、苦情処理、商品内容などに問題のある新しい手口のものが現れてきた。その代表が、マルチ商法と俗称される多層販売法multi-level-marketing planないしピラミッド・セーリングである。特定商取引法ではこれを連鎖販売取引という。これは、ねずみ講の方法を応用したもので、本部会社と販売員が次々に他の者を販売員として加盟させ、販売員を順次上級に昇進(リクルートという)させることによって組織を拡大する。拡大の推進力は、新加盟者の支払う加盟金の一部または全部、あるいは加盟者の商品仕入れによる卸売利益を、勧誘に成功して昇進した既加盟者に支払うことによる。この方法は、物が売れるか否かに関係なく組織を肥大させるが、人口が無限にない限りいずれ破綻(はたん)し、末端の者が大損をする。このため、特定商取引法によって厳しく規制されている。
ほかにも問題を起こす特殊販売がいくつかある。第一はアポイントメント・セールスappointment salesである。各種の名簿によって面会を約束させ、さまざまな特典を並べて商品を販売する方法である。強引な勧誘、不要不急の商品の押し付け、一方的契約など、問題が多い。語学用教材、海外旅行などの商品を売り込むのに用いられている。問題の第二はキャッチ・セールスcatch salesである。駅や盛り場の街頭で通行人に声をかけて、商品等の購入をもちかけ、その場で契約書にサインさせる方法である。内容と問題点は、アポイントメント・セールスとまったく同じである。問題の第三はSF商法や催眠商法とよばれるものである。参会者に商品を無料で配布するとしてホテルなどに人を集め、安価な商品を無料配布のあと、新たに催眠状態に引き込むような異常な勧誘によって買わねば損という心理をおこさせ、高価な商品を多量に買わせてしまう商法である。SFとは、この方法を初期に多用した「新製品普及会」の頭文字であるとも、SF小説(空想科学小説)まがいであることからきたともいわれるが、真偽は明らかではない。問題の第四は、通信販売にも関係するが、士(さむらい)商法とよばれるものである。実際には存在しないにもかかわらず、関係官庁の認可が近く出るとかすでに出たと称して、○○士のような資格の取得を勧誘し、相当の金銭を詐取する方法である。資格ブームに便乗した悪徳商法である。
割賦販売に関係するものとしては、サービスつき割賦販売がある。これは、種々のサービスをつけた割賦販売である。たとえば、「教師を派遣する」というサービスをつけて語学教材を割賦販売するものである。実際にはサービスが提供されなかったり、サービスの質が購入者の期待に合致しなかったり、サービスの名による不当な価格がつけられたりして、トラブルが多いので、サービスつきを明記する義務を業者に課している。以上のような問題のある方法のほか、特殊販売類似の犯罪行為として、いわゆる振り込め詐欺がある。これは、電話により近親者等を名のり、金銭の振込みをことば巧みに働きかけるものである。
[森本三男]