割賦は〈わっぷ〉とも読む。売買代金の支払について,その代金の一部または全部の支払を将来に延期し,それを一定の期間内に分割して支払うことを条件とした販売方式。支払サイクルから分類すると,毎週1回支払う週賦,10日に1回支払う旬賦,毎月1回支払う月賦,毎年1回支払う年賦など,さまざまであるが,現在では月賦が最も一般的である。分割払いによる債務の決済は,最も古いものとしては,エジプトやローマにおける土地・家屋など不動産の取引にみられるが,今日のように一般の消費財の取引に広く適用されるようになったのは,早く見積もっても産業革命後であり,大量生産体制の確立と密接に結びついているといってよい。すなわち現在の割賦販売方式は,量産化の進んだ比較的高価格の耐久消費財を円滑に販売することを可能にするとともに,それらの購入を通じて一般給与生活者等の生活水準の引上げを可能にしているのである。
割賦販売を類型化してみてみると,(1)独立方式による割賦販売,(2)系列方式による割賦販売,(3)代行方式による割賦販売,(4)金融機関と連係する割賦販売,(5)その他の方式,に分類することができよう。(1)の独立方式割賦販売は,小売業者が自己の計算に基づき,自己の金融負担によって行う割賦販売であり,月賦百貨店などが代表的な事例である。(2)の系列方式割賦販売は,自動車,家電製品,ミシン,楽器などに多くみられる方式で,メーカーがそれぞれの販売機構を通じて実施するものであり,メーカー自身またはその販売会社が直接金融措置を講じたり,月販会社を設けたりして,自己の商品の割賦販売を円滑に実施することに努めるものである。(3)の代行割賦販売は,個々の小売業者が資力不足で円滑な割賦販売を実施できない場合に信販会社,カード会社,協同組合など,なんらかの代行機関が買手との間に介在して賦払信用を供与する方式である。1951年から60年代半ばくらいまでのチケット(クーポン)式割賦販売,61年以降のこれにとって代わったクレジット・カード式割賦販売が,その代表的な事例である。(4)の金融機関連係割賦販売は,メーカーないしは販売会社が金融機関と連係して実施する若干変則的な割賦販売方式である。商品の購入希望者は,メーカーまたは販売会社と割賦購入契約を結ぶとともに,連係金融機関において,これから支払うべき購入代金を積立預金することになっており,買手の積立預金開始前または開始と同時に商品の引渡しが行われる場合(先渡式割賦販売)と,商品代金の一定割合が積み立てられた後で商品の引渡しが行われる場合(積立式割賦販売)とがある。(5)のその他の方式としてあげられるのは,ミシンの販売などで用いられてきた〈予約式割賦販売〉ないしは〈前払式割賦販売〉である。この方式は,商品代金の全額を分割払いによって完済させた後で商品を引き渡すもので,厳密な意味では割賦販売ではなく,むしろ予約販売であるが,一般に予約式割賦販売という名称が慣用化している。
→消費者金融
執筆者:木綿 良行
割賦販売は,通常の売買に比べ販売促進に有効であるが,売掛金の回収に不安が残り,消費者問題を引き起こす危険もある。このような特質に対応するものとして1961年に制定されたのが割賦販売法である。同法は,割賦販売に関する取引秩序の確立,販売業者の保護,購入者である消費者の保護の三つの理念を柱として制定されたが,その後しばしば改正が行われ,現在では消費者保護に大きくウェイトをかけたものになっている。同法における〈割賦販売〉とは,購入者から代金を2ヵ月以上の期間にわたり,3回以上分割して受領することを条件として,指定商品を販売するものを指す(なお,リボルビング方式(限度額の範囲内で,何回でも掛け売りに応じ,毎月一定の額で返済できる方式)による分割払のときは2ヵ月以上かつ3回以上の条件を必要としない)。指定商品は政令で定めることになっており,現在,家具,書籍,自動車等多くの耐久消費財が指定されている。割賦販売法が適用されると,次の取扱いを受ける。(1)業者は購入者に対し,価格,代金の支払時期等,契約上の重要な事項をあらかじめ明示し(開示原則),契約が成立した際は,その内容を記載した書面を交付しなければならない。(2)消費者は,契約を締結したり申し込んだりした場合であっても,それが店舗以外の場所においてなされたものであるかぎり,上記の書面を受領し,クーリング・オフ制度が存在することを告げられた後,8日の間はこれを解消しうる。この場合,業者は損害賠償や違約金の支払請求もできない。ただし金銭の支払を終えてしまった場合はクーリング・オフは不可能になる。(3)購入者が代金を支払わない場合,業者は契約を解除できるが,そのためには20日間以上の期間を定めて書面で支払を催告しなければならない。(4)契約が解除される場合における損害賠償の支払において,業者はあまりにも過大な請求をしてはならない。(5)代金の完済まで商品の所有権は業者にあると推定する。
以上が割賦販売法による原則的な規制内容であるが,同法は次のような特殊な形態に対しても規制を行うことにしている。(1)前払式割賦販売 中渡式と後渡式の場合であるが,購入者保護の観点から,許可制とされ,保証金の供託等が義務づけられる。(2)ローン式割賦販売 金融機関とタイアップして行う場合であり,上記の通常の割賦販売に対するものとほぼ同様な取扱いを受ける。(3)前払式特定取引 百貨店の友の会とか互助会のように,売買の取次やサービスの提供に関する場合であるが,前払式割賦販売とほぼ同様な規制を受ける。(4)割賦購入あっせん クレジット・カード等による割賦販売の場合であり,登録制や保証金の供託等の法規制を受ける。また,消費者は販売業者に対する商品の欠陥等の契約上の抗弁事由をカード会社等のあっせん業者にも主張できる(抗弁の接続という)。なお不動産は,本法の適用を受けないが,宅地建物取引業法等により消費者の保護が図られている。
→消費者保護
執筆者:川越 憲治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
商品の代金を何回かに分割して受け渡しする販売方式。割賦(わっぷ)販売、分割払い販売ともいう。割賦販売による支払金を割賦金というが、割賦金支払い完了前に商品を引き渡すものを先渡し式、支払い完了後に引き渡すものを前払い式という。動産では普通、先渡し式である。割賦販売は、掛売りとともに小売り販売金融の重要な方法であるが、信用の返済が分割額で予定される点で、掛売りとは異なる。割賦販売は、割賦金支払いの時間的単位によって、年賦、月賦、週賦などに分けられるが、日本では月賦がもっとも多い。割賦販売に適した商品は、耐久性のある、比較的高価な、量産されているが独自性のある、移動性のあるものとされている。家庭用電気器具、家具、自動車のような耐久消費財がその典型であるが、家屋のような不動産も扱われている。割賦販売には、購入者が販売者に直接割賦金を払い込む直接割賦と、販売者にかわる第三者に払い込む間接割賦とがある。前者は、割賦専門店や小売店が独自に行う特立て方式である。後者には、メーカーの関連販売会社などが行う系列方式、信販会社などによるチケット方式、銀行などによるローン方式がある。割賦販売の利点は、低所得者でも高級品が入手できること、顧客の拡大によるコスト引下げが価格引下げ効果を生み出すこと、などにある。その反面、欠点としては、金利や貸倒れを織り込んだ割高な金額で商品を買わされること、割賦金の支払いに追われて経済的に苦しくなる危険があること、などがあげられる。
[森本三男]
日本では、割賦販売の普及とそれに伴うトラブルの多発に対応するため、1961年(昭和36)に割賦販売法(昭和36年法律第159号)が制定された。本法にいう割賦販売とは、2か月以上にわたり、かつ3回以上の代金分割払いをするものをいう。対象商品も政令で指定されているが、カメラ、家庭用電気器具、自動車、洋服など、耐久性があり定型的条件での販売に適したものはほとんど含まれている。なお、割賦販売法では、不動産は適用除外とされている。
法律の当初の主内容は次のとおりであった。(1)割賦販売業者は契約前に、現金販売価格、割賦販売価格、代金支払い期間と回数、手数料の料率(実質年率)、商品引渡し時期(前払い式の場合)などの販売条件を明示すること、(2)業者は契約書面を交付すること、(3)同書面に、買い主が契約日から4日間は無条件で契約解除できる旨を明示すること(クーリング・オフ制度)、(4)商品の所有権は割賦金支払い完了まで業者にあると推定すること、(5)前払い式割賦販売を営む業者は通商産業大臣(現在の経済産業大臣)の許可を要すること、などである。
その後、消費者信用の拡大に伴う取引実態に応じて、同法は1984年に大幅改正された。おもな改正点としては、指定商品に消耗品も含まれることになり、割賦購入あっせん取引(信販会社などが販売店に代金を立替払いし、購入者に対する債権を買い取る方式)などサービス商品をも含めて規制対象となったことがあげられる。またクーリング・オフ制度が7日間に延長され(1988年に8日間に再延長)、代金不払いの際の契約解除について、20日以上の期間を定めた書面による支払催告が必要との制限が加えられた。
[森本三男]
2008年(平成20)の改正(2009年12月施行)では、割賦の定義を見直して「2か月を超える1回払い、2回払い」を規制対象に加え、従来の対象商品を政令で指定するのをやめ、原則すべての商品・サービス(クーリング・オフになじまない商品を除く)を規制対象とした。クレジットカード発行会社の登録制を導入し、行政による立ち入り検査や改善命令などの監督規定を盛り込んだ。クレジットカード発行会社には訪問販売などを行う加盟店(販売業者)の勧誘行為について調査を義務づけた。虚偽説明や、通常必要とされる量を超えた商品やサービスを購入した場合(過量販売)には、個別クレジット契約を解約し、すでに払ったお金の返還請求をできるようにした。
急増するクレジットカードの不正利用を防ぐため、2016年の改正(施行は2018年春ごろ)では、クレジットカード発行会社に、(1)カード偽造がむずかしいIC決済端末を全国の加盟店に普及させる、(2)加盟店が顧客カード情報を悪質に使用していないかどうかを調査すること、などを義務づけた。加盟店と契約するカード事業者の登録制を導入し、金融とITを融合したフィンテックFintech企業もこの登録を受けられるようにして、フィンテック企業の法的位置づけを明確にした。政府はオリンピック・パラリンピック東京大会が開かれる2020年までに、すべての加盟店にICチップ対応端末を導入する目標を掲げている。
[矢野 武 2017年5月19日]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…分割払いによる債務の決済は,最も古いものとしては,エジプトやローマにおける土地・家屋など不動産の取引にみられるが,今日のように一般の消費財の取引に広く適用されるようになったのは,早く見積もっても産業革命後であり,大量生産体制の確立と密接に結びついているといってよい。すなわち現在の割賦販売方式は,量産化の進んだ比較的高価格の耐久消費財を円滑に販売することを可能にするとともに,それらの購入を通じて一般給与生活者等の生活水準の引上げを可能にしているのである。 割賦販売を類型化してみてみると,(1)独立方式による割賦販売,(2)系列方式による割賦販売,(3)代行方式による割賦販売,(4)金融機関と連係する割賦販売,(5)その他の方式,に分類することができよう。…
…所有権留保の特約を失権約款とともに用いておけば,これらの問題もかなり片づく。そこで,割賦払いで商品を販売する場合には,この方法がひろく利用され,割賦販売法7条も,政令で指定した耐久商品の割賦販売では,代金全部の支払があるまで商品の所有権は販売業者に留保されたものと推定している。もっとも,不動産の割賦販売を宅建業者が行うときには,所有権留保は制限されていて(宅地建物取引業法43条参照),不動産に関してはあまり大きな機能を有していない。…
※「割賦販売」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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