ことわざを知る辞典 「猫に小判」の解説
猫に小判
[使用例] 「〈略〉ご院さまがおいでの節に、教えていただこうかしら」「ほかに適当な方がありますよ」「お道具は、一ト揃い揃えています。何ですか、亡くなった旦那が自慢にしていた、ずいぶん高価なお茶碗もございますけど、猫に小判ですわ」[丹羽文雄*菩提樹|1955]
[使用例] 「じゃその高いワイン、二人で飲もうぜ。洋子の帰国祝いってことでさ」
「冗談じゃないわ」私は鼻を鳴らした。「猫に小判よ。このワイン、どれほど苦労して持ってきたか知らないでしょ。もっと分かった人に飲んでもらうわよ」「おお、こわ」[林真理子*最終便に間に合えば|1985]
[解説] 実際に猫に小判をあたえることはまずないでしょうが、その思いがけない組み合わせがユーモラスな上に、視覚的にも容易にイメージが浮かび、効果的な比喩となっています。よいものを価値のわからない者にあたえても無意味で、もったいないと他人を批評するほか、自分には価値がわからないことを素直に(あるいは謙遜して)認めて使う場合もあります。
江戸中期には、「猫に小判を見せたよう」と直喩の形式でしたが、「猫に小判」と簡潔な暗喩にすることで、ことわざらしい表現となりました。後期には、上方のいろはかるたに採用され、さらにひろく知られるようになったものです。小判が姿を消した現代でも盛んに使われ、子どもにも親しまれる表現といってよいでしょう。なお、近年は聖書に由来する「豚に真珠」もほぼ同じ意味で使われています。
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