猫ひっかき病

内科学 第10版 「猫ひっかき病」の解説

猫ひっかき病(バルトネラ感染症)

概念・病因
 ネコが保有するBartonella henselaeをおもな原因菌として起こる感染症である.B. henselaeは,Gram陰性の小桿菌で,血液寒天培地などの無細胞培地でゆっくり増殖する.保菌ネコ(特に子猫)の引っかき傷や咬傷で感染し,局所の皮膚病変と所属リンパ節腫脹をきたし,発熱を伴うが,全身症状は一般に軽い.まれに同菌を有するイヌネコノミからも感染する.世界中に広く分布し,秋から冬にかけて発症することが多い.ネコノミがベクターと考えられている.わが国では1953年に報告されたのち散見されていたが,医師が経験する動物由来感染症の上位の疾患であるとの調査報告もある.
臨床症状
 ネコによる受傷から3~10日後に受傷部位の皮膚に発赤を伴う丘疹水疱が出現し,膿疱を伴うこともある.その後1~2週間で受傷部位の所属リンパ節に疼痛を伴う腫脹がみられる.通常は一側性で,鼠径部腋窩部,頸部リンパ節腫脹が多い.リンパ節腫脹はときに鶏卵大以上にも達し,皮膚表面は発赤を伴い,やや硬く,圧痛を認める.数週間で次第に軟化し治癒する.全身症状は一般に軽く,発熱は数日で正常化し,全身倦怠感や頭痛,関節痛なども解熱とともに自然軽快する.白血球増加,CRP上昇などの炎症所見を示す.また,非定形的な症状として,Parinaud症候群,心内膜炎,脳症,視神経網膜炎,肝機能障害,血小板減少性紫斑病などを合併することがある. AIDS患者や免疫不全状態では,細菌性血管腫や菌血症など重篤な経過をとることがある.
診断
 ネコとの接触歴,リンパ節腫脹,リンパ節生検組織の病理組織所見が診断に役立つ.おもに間接蛍光抗体法(IFA)や酵素抗体法(EIA)による抗体価の測定による血清学的診断がなされるが,ほかのバルトネラやクラミジア,コクシエラとの交差反応性がある.血液やリンパ節からの病原体の分離は困難であり,PCR法が利用される.
治療
 基本的に経過観察のみで自然軽快する.ニューキノロン系,マクロライド系,テトラサイクリン系の抗菌薬が有効であるとされるが,抗菌薬治療にはいまだ議論がある.[安藤秀二]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「猫ひっかき病」の意味・わかりやすい解説

猫ひっかき病 (ねこひっかきびょう)
cat-scratch disease
cat-scratch fever

この病気の原因はまだ不明であるが,病変部の病理学的所見からウイルスによるものと考えられている。患者の約60%にはネコにひっかかれるか,かまれた病歴があり,90%の者にはネコとの接触歴が認められている。ネコ以外のイヌ,サルなどにひっかかれたり,かまれてもこの病気になることがある。ヒトだけにみられる病気で,多くは晩秋から早春にかけて発生し,成人よりも小児に多い。感染後3~10日して初期の皮膚病変が傷口に一致して現れ,小紅斑,丘疹あるいは水疱を呈する。受傷後2~5週経て,皮膚病変のある部位に所属するリンパ節に非細菌性の局所リンパ節炎が起こり,はれる。はれたリンパ節の80%は2~6週で正常大に復するが,残りの20%はそれ以上の長期間にわたってはれがひかない。腋窩(えきか),顎下,耳介前部,鼠径部(そけいぶ)に好発する。発熱は70~80%にみられるが,高熱は少ない。予後は一般的に良好である。
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百科事典マイペディア 「猫ひっかき病」の意味・わかりやすい解説

猫ひっかき病【ねこひっかきびょう】

ネコに咬まれたりひっかかれて受傷し,その2〜3週間後にリンパ節が腫脹(しゅちょう)する病気。細菌の感染によるが,ネコは発病しない。発熱,頭痛,全身倦怠感などが同時に起こり,受傷部位近くのリンパ節が腫脹し,ときに化膿して破れることがある。全身症状が消えた後も腫脹は長期に続くことがあるが,自然に治る。対症療法のほか,抗生物質が有効。

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