猫ひっかき病(読み)ねこひっかきびょう(英語表記)Catscratch disease

六訂版 家庭医学大全科 「猫ひっかき病」の解説

猫ひっかき病
ねこひっかきびょう
Catscratch disease
(外傷)

どんな病気か

 猫ひっかき病は、ネコやイヌに引っかかれた(そう)(傷)や咬まれた創から細菌が感染し、赤くはれ、頸部(けいぶ)リンパ節の痛み・はれ、発熱などの症状を来す疾患です。夏から秋にかけて発生頻度が高くなります。

原因は何か

 バルトネラ属の菌が感染することにより発症します。この菌はネコやイヌなどの動物の爪や口腔内、あるいは動物に寄生するネコノミなどに存在します。

 日本ではネコの1割が感染し保菌しており、ヒトへの感染のほとんどはネコによるものと考えられます。とくに子ネコからの感染の危険性が指摘されています。

症状の現れ方

 通常、数日~数週間の潜伏期のあと、次の症状があります。

①皮膚症状(出現率5~9割)

 最初に皮膚症状が現れます。典型例では直径2~5㎜の小さな赤い発疹、あるいはうみをもった発疹、瘡蓋(そうがい)(かさぶた)を生じます。

②リンパ節のはれ(出現率8~9割)

 痛みのあるリンパ節のはれが、腋の下や頸部、下顎に現れます。リンパ節のはれは鶏卵大以上になることもあります。リンパ節は硬く、押すと痛みがありますが徐々に軟らかくなり、しばしば一部が破れてうみが流れ出ます。発疹やリンパ節のはれは2~5カ月で自然に治ります。

③発熱(出現率5~7割)

④その他

 頭痛や意識障害を訴える脳症(出現率1割以下)や結膜炎(けつまくえん)を合併することもあります。また、糖尿病肝硬変(かんこうへん)など免疫力の低下を伴う基礎疾患がある場合や小児では、しばしば重症になります。

検査と診断

 ①ネコやイヌとの接触歴、②原因不明で3週間以上継続するリンパ節のはれ、③原因不明の発熱、④組織病理学的所見により診断されます。

治療の方法

①成人では、通常は自然に治るため、解熱薬鎮痛薬対症療法だけで経過観察します。一般に予後は良好で、抗菌薬を使わなくても6~12週でよくなります。

②症状が長引く場合には抗菌薬を内服します。

③重症例では入院や集中治療室での治療が必要になります。

病気に気づいたらどうする

 皮膚科、内科、あるいは小児科を受診してください。また、意識障害や重度の頭痛、あるいは食事ができない時は、救急車を要請してください。

田熊 清継


猫ひっかき病
ねこひっかきびょう
Catscratch disease (CSD)
(感染症)

どんな病気か

 ネコにひっかかれたり、咬まれたりすることによって感染します。原因は、バルトネラ・ヘンセレという細菌です。幼児や思春期の子どもに多く発症します。

 ネコノミの糞中の細菌が、毛づくろいなどによってネコの口腔や爪に定着し、傷口をなめたり、ひっかいたり、咬んだりすることでネコ同士あるいはヒトへの感染が起こると考えられています。ノミから直接感染する可能性も指摘されています。

症状の現れ方

 3~10日の潜伏期ののち、受傷部位に紅斑性丘疹(こうはんせいきゅうしん)が現れ、リンパ節の有痛性の腫脹(しゅちょう)(はれ)が認められます。発熱、寒気、食欲不振、倦怠感(けんたいかん)、全身の発疹、パリノー症候群(垂直注視麻痺(すいちょくちゅうしまひ))などを伴うことがあります。

 一般的には良性の病気で、多くの場合は自然に治ります。しかし、免疫機能の低下している患者さんでは、肝臓脾臓(ひぞう)などに細菌性血管腫を起こすことがあり、また、脳症などの重い合併症も報告されています。

検査と診断

 血清学的診断あるいは菌の分離、PCRポリメラーゼ連鎖反応)法による遺伝子の検出などによって確定診断します。臨床的にはブルセラ症野兎病(やとびょう)リンパ腫トキソプラズマ症などとの区別が必要です。

治療の方法

 免疫機能が正常であれば、通常は自然に治るので、抗生剤による治療は行いません。免疫異常の患者さんや重症の場合にはアジスロマイシンドキシサイクリンシプロフロキサシンなどの薬で治療を行います。

病気に気づいたらどうする

 ネコによって傷つけられた場合には、患部をすみやかに洗浄して消毒します。通常は自然に治りますが、様子を観察し、治らないようなら医療機関を受診してください。

山田 章雄


猫ひっかき病
ねこひっかきびょう
Catscratch disease (CSD)
(子どもの病気)

どんな病気か

 ネコにひっかかれた後にリンパ節がはれるため、このような名前がついています。しかし、イヌにひっかかれて発症した例や、原因が不明な場合もあります。

原因は何か

 ネコなどがもっているバルトネラ菌という細菌の感染によります。

症状の現れ方

 典型例では、ネコにひっかかれた1~2週後に、主に首のリンパ節がはれてきます。また、多くの例では熱も出ます。合併症はほとんどありませんが、まれに脳症や眼の炎症を起こすことがあります。

検査と診断

 バルトネラ菌を培養することは難しく、症状およびネコとの接触歴からこの病気を考えます。

治療の方法

 バルトネラ菌に対して効果のある抗生剤を使います。自然に治ることも多いのですが、その場合、リンパ節のはれがひくのに数カ月もかかります。

病気に気づいたらどうする

 ネコにひっかかれた後に首のリンパ節がはれてきた場合はほぼ間違いないのですが、実際はネコとの接触歴が不明な例もあります。したがって、首のリンパ節のはれがなかなか治らない場合はこの病気にかかっている可能性もあるため、医療機関に相談してください。

大石 智洋

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「猫ひっかき病」の解説

猫ひっかき病(バルトネラ感染症)

概念・病因
 ネコが保有するBartonella henselaeをおもな原因菌として起こる感染症である.B. henselaeは,Gram陰性の小桿菌で,血液寒天培地などの無細胞培地でゆっくり増殖する.保菌ネコ(特に子猫)の引っかき傷や咬傷で感染し,局所の皮膚病変と所属リンパ節の腫脹をきたし,発熱を伴うが,全身症状は一般に軽い.まれに同菌を有するイヌやネコノミからも感染する.世界中に広く分布し,秋から冬にかけて発症することが多い.ネコノミがベクターと考えられている.わが国では1953年に報告されたのち散見されていたが,医師が経験する動物由来感染症の上位の疾患であるとの調査報告もある.
臨床症状
 ネコによる受傷から3~10日後に受傷部位の皮膚に発赤を伴う丘疹,水疱が出現し,膿疱を伴うこともある.その後1~2週間で受傷部位の所属リンパ節に疼痛を伴う腫脹がみられる.通常は一側性で,鼠径部,腋窩部,頸部のリンパ節腫脹が多い.リンパ節腫脹はときに鶏卵大以上にも達し,皮膚表面は発赤を伴い,やや硬く,圧痛を認める.数週間で次第に軟化し治癒する.全身症状は一般に軽く,発熱は数日で正常化し,全身倦怠感や頭痛,関節痛なども解熱とともに自然軽快する.白血球増加,CRP上昇などの炎症所見を示す.また,非定形的な症状として,Parinaud症候群,心内膜炎,脳症,視神経網膜炎,肝機能障害,血小板減少性紫斑病などを合併することがある. AIDS患者や免疫不全状態では,細菌性血管腫や菌血症など重篤な経過をとることがある.
診断
 ネコとの接触歴,リンパ節腫脹,リンパ節生検組織の病理組織所見が診断に役立つ.おもに間接蛍光抗体法(IFA)や酵素抗体法(EIA)による抗体価の測定による血清学的診断がなされるが,ほかのバルトネラやクラミジア,コクシエラとの交差反応性がある.血液やリンパ節からの病原体の分離は困難であり,PCR法が利用される.
治療
 基本的に経過観察のみで自然軽快する.ニューキノロン系,マクロライド系,テトラサイクリン系の抗菌薬が有効であるとされるが,抗菌薬治療にはいまだ議論がある.[安藤秀二]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「猫ひっかき病」の意味・わかりやすい解説

猫ひっかき病 (ねこひっかきびょう)
cat-scratch disease
cat-scratch fever

この病気の原因はまだ不明であるが,病変部の病理学的所見からウイルスによるものと考えられている。患者の約60%にはネコにひっかかれるか,かまれた病歴があり,90%の者にはネコとの接触歴が認められている。ネコ以外のイヌ,サルなどにひっかかれたり,かまれてもこの病気になることがある。ヒトだけにみられる病気で,多くは晩秋から早春にかけて発生し,成人よりも小児に多い。感染後3~10日して初期の皮膚病変が傷口に一致して現れ,小紅斑,丘疹あるいは水疱を呈する。受傷後2~5週経て,皮膚病変のある部位に所属するリンパ節に非細菌性の局所リンパ節炎が起こり,はれる。はれたリンパ節の80%は2~6週で正常大に復するが,残りの20%はそれ以上の長期間にわたってはれがひかない。腋窩(えきか),顎下,耳介前部,鼠径部(そけいぶ)に好発する。発熱は70~80%にみられるが,高熱は少ない。予後は一般的に良好である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「猫ひっかき病」の意味・わかりやすい解説

猫ひっかき病【ねこひっかきびょう】

ネコに咬まれたりひっかかれて受傷し,その2〜3週間後にリンパ節が腫脹(しゅちょう)する病気。細菌の感染によるが,ネコは発病しない。発熱,頭痛,全身倦怠感などが同時に起こり,受傷部位近くのリンパ節が腫脹し,ときに化膿して破れることがある。全身症状が消えた後も腫脹は長期に続くことがあるが,自然に治る。対症療法のほか,抗生物質が有効。

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