昔話。動物どうしの葛藤(かっとう)を主題にした動物昔話の一つ。猿と蟹が出かける。猿は柿(かき)の種を、蟹は握り飯を拾う。猿は柿の種と交換して握り飯を得て食べる。蟹は柿の種を播(ま)く。柿の木は成長し、実が熟す。蟹が猿に取ってくれるように頼む。猿は熟した実は自分で食べ、青い実を蟹に投げ付けて殺す。蟹の子供が黍(きび)団子を持って、仇討(あだうち)に行く。途中、栗(くり)の実などが団子をもらって蟹の加勢をする。猿の家に着くと栗の実などは部署につく。猿が帰ってきて炉にあたると、栗の実がはぜて火傷(やけど)を負わせる。水をつけようと水甕(みずがめ)に行くと蜂(はち)が刺す。逃げようとすると、牛の糞(くそ)で滑り、門の上から落ちてきた臼(うす)につぶされる。
江戸時代の五大昔話の一つで、赤本の『さるかに合戦』など多くの文献にみえている。明治以後も、絵本や読み物で広く親しまれているが、昔話では、かなり変化した類話が知られている。前段が猿と蟹が共同で稲をつくる「猿と蟹の寄り合い田」になっている例も多い。猿が協力せず、稲が実り餅(もち)に搗(つ)くと、猿は1人で持って逃げる話である。
この昔話は2段からなり、前段は「動物の分配競争」であり、後段は「旅する動物」である。「動物の分配競争」は動物昔話の重要な部分をなしており、連鎖譚(たん)として東南アジアには顕著な例が分布している。この前段もおそらくそうした連鎖譚の一例であろう。「かちかち山」の前段も、この種の連鎖譚からの分化らしい。後段の「旅する動物」は、グリム兄弟の昔話集の「ブレーメンの音楽隊」の話など、ヨーロッパにも多い昔話である。「猿蟹合戦」とはやや異なった、卵を盗まれた小鳥が、仲間の協力で仇を討つ「雀(すずめ)の仇討」は、日本のほか、類話が古代インドの『パンチャタントラ』や中国大陸にもある。「猿蟹合戦」のように、動物の戦闘隊の型をとる「旅する動物」の類話は、東アジアから北アメリカの先住民に多い。主人公に動物などが協力するという型は、「桃太郎」の骨子とまったく同じで、「猿蟹合戦」の後段には、黍団子など「桃太郎」の要素との交流も現れている。外国には「猿蟹合戦」のような複合形態の昔話は知られていない。日本で複合して発達した昔話であろう。
[小島瓔]
昔話。動物社会における食物の分配,葛藤,制裁を語る動物昔話。五大お伽噺の一つ。猿とカニまたはヒキガエルの間に起こる食物分配の不公平をめぐる物語と,優位者の猿を栗,針,ハチ,みそ,牛糞,臼などが,共同の力で懲らしめる物語から成る。カニが丹精して作った柿を一人占めにした猿を,懲らしめる話は,童話化して広く知られる。地域によっては,前半だけで完結した昔話として語られている。厳密な意味では,合戦譚の後半部を動物昔話とは言い難い。江戸時代の絵本である赤本・黒本など,または《燕石雑志》には,とりわけ残酷な合戦譚が記されているが,これは先行する御伽草子の異類合戦物の強い影響を受けたものと思われる。この昔話は〈猿と蟇(がま)の餅争い〉を基本にして成立し,後半の合戦譚と結びついた複合構造の話型であるとされる。前半の主題は,農耕に深くかかわるものとみられる。猿がカニやヒキガエルから取りあげた柿は,正月の餅と共に用意される品であり,正月行事成木(なりき)責めの呪木ともなる。現にこの昔話には,カニやヒキガエルの言葉として,成木責めの唱え詞が用いられる。また柿の種は,豊年を占う呪物として,ハレの日の面影を宿す語りの素材である。この昔話では,そうしたハレの日の品を独占する猿が,当然のこととして制裁される点に,注目すべきであろう。
執筆者:野村 敬子
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