成木責め (なりきぜめ)
果樹に霊を認めてそれを威嚇し,豊産を約束させる呪法。小正月に行われ,木責め,木まつり,ナレナレなどともいわれる。全国に広い分布をもつが,果樹といってもほとんどは柿の木に対するものである。まず2人一組になって果樹に向かい,1人が〈成るか成らぬか,成らねば切るぞ〉と唱えながら鎌や斧,なたなどで樹皮に少し傷をつけ,もう1人が果樹になったつもりで〈成り申す,成り申す〉などと答えると,傷の所に小正月の小豆粥が少し塗られるというのが一般的な形式で,おとなも子どもも参加する。樹皮を刺激することで豊産の実際的な効果もあるといわれるが,刃物とは別に祝棒や牛王(ごおう)の棒などでたたく所も少なくなく,あくまでも呪術的なものであろう。ヨーロッパにも類似の呪法がある。昔話の猿蟹合戦にもこの問答形式が影響している。また,同じく小正月に祝棒で新嫁の尻を打って多産を願うのは,人に対して行う類似の呪法である。
執筆者:田中 宣一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
成木責め
なりきぜめ
小(こ)正月に柿(かき)などの果樹を打ち責め、豊熟を約束させようとする呪術(じゅじゅつ)。キマジナイ、キマツリ、ナレナレなど呼称は所によって異なるが、形式は、1人が鉈(なた)か鎌(かま)を持って木に向かい、「成るか成らぬか、成らねば切るぞ」と唱えて幹に少し傷をつけると、他の1人が木にかわって、「成ります成ります」と答えるというような演技をしたあと、傷口に小豆粥(あずきがゆ)を塗り与える場合が多く、かつては全国の村々に広く分布していた。刃物ではなく、霊力があるとされる祝い棒やどんど焼の燃え残りの竹、松で打つこともあり、このほうが古風かと考えられる。また、同じ小正月に子供たちが新婚家庭を回って新嫁の尻(しり)を打ち、はらませようとした嫁タタキの行事とは、趣旨において共通するものである。
[田中宣一]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
成木責め
なりきぜめ
小正月にかきなどの果樹の豊熟を祈念する行事。家の主人が手斧を持って,かきの木に向って切りつけるしぐさをし,「なるかならぬか」と問いかける。家人が木の陰にいて,「なります,なります」と答える。こうして木をおどして豊熟を誓わせるまじないである。木に刻み目をつけて小豆粥を塗るところもあり,神供を意味する。九州には,なしの木に対して「なれなれなしの木,ならんじゃ打ち切る」うんぬんと唱える例がある。切りつけるのではなく,粥杖のように棒でたたく例も多く,本来はたたく形式であったものと考えられる。成木責めの風習はヨーロッパの各国でも行われている。
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世界大百科事典(旧版)内の成木責めの言及
【樹木崇拝】より
…聖霊降臨祭の行事に森から1本の木を切ってきて村の中央の広場に運ぶ〈五月の木(メーポールMaypole)〉の習俗が伴うのはその名残りで,ペリゴール地方ほかでは〈自由の木〉と呼び,フランス革命の象徴となった。樹木に神,神霊,精霊が宿るとする観念は広く見いだされ,樹霊に対して多産を祈る日本の〈[成木責め](なりきぜめ)〉の民間習俗は,ブルガリア農民がクリスマス・イブに実をつけない果樹に斧を振っておどす習俗と対応している。〈生命の樹〉は死者をよみがえらせ,病気をいやし,若さを回復せしめる神秘の木で,十字架はしばしば生命の樹として描かれる。…
【唱言】より
…信仰に起源をもつ唱言が多いため,信仰の衰退に伴い数は減じてきているが,今でも年中行事や神事の中に残っている。節分の〈福は内,鬼は外〉は代表的な例で,小正月には〈なるか,ならぬか〉〈なります,なります〉という成木(なりき)責めの問答形式の唱言や〈朝鳥ホイホイ,夕鳥ホイホイ〉と唱えながら子どもたちが村を巡回する鳥追などがあり,盆の精霊送りや雨乞いにも先祖や水神に呼びかける唱言が使われる。子どもが体を痛めた時に,親が〈チチンプイプイ……〉と唱えるのも唱言とされ,また子どもが〈蛍来い〉とか〈明日天気になーれ〉と言う童言葉なども唱言に由来するといわれ,子どもの生活に結びついたものが多い。…
※「成木責め」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」