理無い(読み)ワリナイ

デジタル大辞泉 「理無い」の意味・読み・例文・類語

わり‐な・い【理無い】

[形][文]わりな・し[ク]《「割り無い」で、理性道理では計り知れない意》
理屈分別を超えて親しい。非常に親密である。多く、男女関係についていう。「いつしか―・い仲になる」
道理に合わない。理屈ではどうにもならない。
「心をぞ―・きものと思ひぬる見るものからや恋しかるべき」〈古今・恋四〉
なすすべを知らない。どうしようもない。
「扇をさし出でて制するに、聞きも入れねば、―・きに」〈・二二二〉
どうにもできなくて苦しい。堪えきれない。
「この人の思ふらむことさへ、死ぬばかり―・きに」〈帚木
やむをえない。しかたない。
「―・く夜更けて泊まりたりとも、さらに湯漬けをだに食はせじ」〈・一九六〉
やっとのことである。精一杯である。
「―・くしてく隠れて命を存することは有難し」〈今昔・二九・三七〉
程度がはなはだしい。ひととおりでない。
「―・う古めきたる鏡台の」〈・末摘花〉
言いようもないほどすばらしい。何とも殊勝である。
眉目形みめかたち、心ざま、優に―・き者で候とて」〈平家・一〇〉
何ともいじらしい。けなげである。
「春を忘れぬ遅桜の花の心―・し」〈奥の細道
[派生]わりなさ[名]

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「理無い」の意味・読み・例文・類語

わり‐な・い【理無】

  1. 〘 形容詞口語形活用 〙
    [ 文語形 ]わりな・し 〘 形容詞ク活用 〙 ( 「割り無い」で、ことわり(理)が無いの意 )
  2. 道理に外れている。分別がない。わきまえを失っている。理性でどうにもならない。
    1. [初出の実例]「心をぞわりなき物と思ひぬるみる物からや恋しかるべき〈清原深養父〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋四・六八五)
    2. 「三浦之介にわりなき恋路」(出典:浄瑠璃・近江源氏先陣館(1769)六)
  3. 無理である。強引である。
    1. [初出の実例]「折しもこそあれ、わりなき召しかな」(出典:宇津保物語(970‐999頃)祭の使)
    2. 「毛国鼎は、なほ面を犯して諫んとするに、近臣わりなく押隔(へだて)」(出典読本・椿説弓張月(1807‐11)続)
  4. どうしようもなくつらい。たえがたく苦しい。こらえきれないほどである。どうにもやるせない。
    1. [初出の実例]「夜一夜、しらぬことによりうちひき給ひつるこそいとわりなかりつれ」(出典:落窪物語(10C後)一)
    2. 「をととひより腹をやみて、いとわりなければ、しもに侍りつるを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)空蝉)
  5. やりようがない。どうしようもない。仕方がない。やむを得ない。余儀ない。是非もない。
    1. [初出の実例]「帯刀(たちはき)わりなしと思へり」(出典:落窪物語(10C後)一)
    2. 「いみじう酔ひて、わりなく夜ふけてとまりたり」(出典:枕草子(10C終)一九六)
  6. どうしていいかわからない。途方にくれる。困ったことである。
    1. [初出の実例]「男侍る女を、いとせちにいはせ侍りけるを、女いとわりなしといはせければ」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)恋二・六二九・詞書)
    2. 「宮は、さすがにわりなく見え給ふものから、心つよくて、明けゆくけしきを」(出典:堤中納言物語(11C中‐13C頃)逢坂越えぬ権中納言)
  7. やっとのことである。かろうじてである。
    1. [初出の実例]「破无くして此(か)く隠れて命を存する」(出典:今昔物語集(1120頃か)二九)
  8. 程度が分別を超えている。どうしようもないほどである。はなはだしい。ひととおりでない。
    1. [初出の実例]「猶わりなく恋しうのみおぼえければ」(出典:伊勢物語(10C前)六五)
    2. 「かくて七月相撲の節にも成ぬれば、わりなき暑さをばさる物にて」(出典:栄花物語(1028‐92頃)かがやく藤壺)
  9. 言いようがないほど美しい。非常に感動的である。
    1. [初出の実例]「岩に堰(せ)閼伽(あか)井の水のわりなきは心澄めとも宿る月哉」(出典:山家集(12C後)下)
  10. 格別すぐれている。殊勝である。
    1. [初出の実例]「霞に浮ぶ沖の釣舟、といへる、わりなきふしを思ひ寄りなんにとりて」(出典:無名抄(1211頃))
  11. 一通りでなく親しい。分別を超えて親密である。切っても切れない。
    1. [初出の実例]「鬼うば憎けれど、さすがわりなき中なれば、皺(しわ)多き手を煖めておなかをさすれば」(出典:御伽草子・福富長者物語(室町末))
    2. 「わりなく云(いひ)かはせし女郎をうけ出し」(出典:浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)一)
  12. いじらしい。とてもかわいい。〔名語記(1275)〕
    1. [初出の実例]「をさなき時よりとりそだてて、わりなき事なれば」(出典:曾我物語(南北朝頃)一〇)

理無いの派生語

わりな‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

理無いの派生語

わりな‐さ
  1. 〘 名詞 〙

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