環境調節(読み)かんきょうちょうせつ(その他表記)environment control

改訂新版 世界大百科事典 「環境調節」の意味・わかりやすい解説

環境調節 (かんきょうちょうせつ)
environment control

動植物をとりまく地上あるいは地下環境のうち,主としてその物理・化学的環境を人工的につくり出したり,その一部を修正したりして動植物の生育を調節すること。動植物の生育はこれをとりまく環境と密接な関係をもっている。環境には物理・化学的環境と生物的環境(対象としている生物自体あるいは他の生物群が作り出すもの)があるが,物理・化学的環境には光量,日長,気温,湿度大気の状態あるいは組成など,四季の移りかわりとともに変化するものが多い。また植物にとっては土壌条件も重要なものであり,地下環境として考慮されるのが普通である。

 1920年W.W.ガーナーとH.A.アラード温室カーテンで覆うような方法で,自然の日長時間を調節する装置を用いて,植物の開花現象が日長時間の長短によって起こること(光周性)を発見した。秋の短日条件で開花するキクを,夜間,温室に照明をほどこすことによって日長時間を長くして開花調節を行い,秋以外の季節に出荷する電照栽培は,この現象を実際面に応用した環境調節の例として有名である。またイチゴのように低温により花芽が形成されるものについては,人為的に低温を与える春化処理が行われている。また生物には環境の周期的変化を読み取る機構,すなわち生物時計が体内にそなわっているとされている。1日24時間の日周期を,人工照明などによって短く調節していくと,日周期に合わせて産卵を行うニワトリの年間あたりの産卵数が増加するという。1949年F.W.ウェントが植物用としてこのような人工環境を任意に作りうる装置をアメリカのカリフォルニア工科大学に建設し,トマトの昼温や夜温のいろいろな組合せがその生育にどのように影響するかを実験した。そののち世界各地に同様なものが実験研究施設として作られた。植物用のものはファイトトロンphytotronと呼ばれる。phytonはギリシア語で植物を意味し,tronは物理的装置の意味である。植物用のもので小型のものはグロースキャビネットgrowth cabinetあるいはグロースチェンバーgrowth chamberなどと呼ばれる。動植物用はバイオトロンbiotron,動物用はズートロンzootron,水産動物用はアクアトロンaquatronなどと呼ばれる。そのほか人間の生理研究用のもの,あるいは公害の影響を解析するためのものなどもある。

 実用面での環境調節は,温室や畜舎で古くから行われてきている。温室では冬季トマト,キュウリ,ピーマンや温室メロンを栽培するために暖房機を用いて温度を高めている。場合によっては光合成を盛んにするため炭酸ガス濃度を大気中の300ppmから1000ppm前後に高めること(炭酸ガス施肥ともいわれる)も行われている。ブロイラー用の鶏舎や豚舎では,温度調節を精度よく行うため,窓のないウィンドレス鶏舎や豚舎も用いられるようになっている。近年ではさらにいくつかの環境要素を組み合わせてコントロールする複合制御が行われるようになり,そのためにマイクロコンピューターが導入されている。

 今後も食糧生産の集約化を進め,土地生産性の向上をはかる必要があり,農業における環境調節はますます盛んになっていくと思われるが,投入される人工エネルギーの増大も省エネルギーの点からは検討されなければならず,省エネルギー的な環境調節が不可欠であろう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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