電灯照明を利用して作物の生育を促成または抑制する栽培法。日長が長くなると花をつける長日植物は、日長が短い季節でも温度その他の条件を満たした環境で育てたうえに、人工照明を補って長日条件にすると花をつける。また短日植物に対して人工照明を補うと花がつくのが抑制される。この性質を栽培に応用し、ハウス栽培などで電灯照明により作物の自然開花期以外の時期に開花させることを電照栽培という。なお短日植物を長日の季節に咲かせるための、電照栽培と反対の栽培法を遮光(シェード)栽培という。
現在もっとも電照栽培が実用化されているのはキクの開花抑制である。キクは短日植物で、秋が自然開花期である。これを遅らせて正月、早春の切り花用に生産するために、短日の季節、8月下旬ころになったら夕方から電灯照明し、花芽着生を防ぐ。あるいは夜中に数時間電照して暗期を中断し、相対的に長日条件にしても着花しない。こうして目的の開花日の約60日前に電照をやめると、すでに自然は短日になっているので、花芽がつき、開花する。
キクの電照栽培は1955年(昭和30)ころから広く普及し、静岡、愛知、兵庫、福岡、香川の諸県に集団栽培がある。キクのほかには、アスター、ハナショウブ、ストックなどの長日植物や、ダリア、グラジオラスなど短日植物の開花調節に用いられているが、規模はわずかである。
[星川清親]
植物の花芽形成には日長が重要な影響を及ぼしており,キク(秋ギク)などは日長がある特定の時間よりも短くなった場合にだけ花芽を形成し(これを短日植物という),キンギョソウ,ストックなどは日長がある特定の時間よりも長くなった場合にだけ花芽を形成する(これを長日植物という)。短日植物の花芽形成を抑えて栄養生長を続けさせるために,あるいは長日植物の開花を促進させるために,夜中に数時間電灯照明をして植物を栽培することを電照栽培という。ただし長日植物の場合は,開花が促進されても徒長して品質が低下することが多いのであまり行われていない。はじめは夕方から照明を行って日長を長くしていたが,植物は昼の長さではなく夜の長さに反応していることが明らかになってからは,真夜中に数時間照明するのが普通になっている。キクの切花は草丈が30cm程度ないと商品価値が劣るので,秋ギクを12~3月に開花させる栽培では,茎が20cm以上伸びるまでは電灯照明を行って花芽形成を抑えなければならない。
執筆者:杉山 信男
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… 1920年W.W.ガーナーとH.A.アラードが温室をカーテンで覆うような方法で,自然の日長時間を調節する装置を用いて,植物の開花現象が日長時間の長短によって起こること(光周性)を発見した。秋の短日条件で開花するキクを,夜間,温室に照明をほどこすことによって日長時間を長くして開花調節を行い,秋以外の季節に出荷する電照栽培は,この現象を実際面に応用した環境調節の例として有名である。またイチゴのように低温により花芽が形成されるものについては,人為的に低温を与える春化処理が行われている。…
※「電照栽培」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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