生殖質(読み)せいしょくしつ(その他表記)germ-plasm

改訂新版 世界大百科事典 「生殖質」の意味・わかりやすい解説

生殖質 (せいしょくしつ)
germ-plasm

1883年A.ワイスマンが提唱した生殖質説で想定した遺伝物質で,遺伝子に似た概念である。この説によれば生殖質は生物の遺伝と生殖に関与するデテルミナントdeterminant(決定要素)とよばれる単位から構成される。そして生殖細胞はその種に特有なあらゆるデテルミナントを含み,その構成を変化させることなく世代から世代へと伝達してゆく。これを生殖質の連続性という。生殖質以外の生体物質はすべて体質とよばれ,体質よりなる部分を体(たい)somaといい,体細胞はすべて体質よりなるとされた。体細胞分裂において各種のデテルミナントはそれぞれ特定の細胞に分配され,それによって体細胞の分化をもたらすと考えた。この考えは個体発生をモザイク的に説明するW.ルーのモザイク説と合流して一つの理論(ワイスマン=ルーのモザイク説)となったが,19世紀の終りより20世紀前半におこなわれた種々の実験発生学的研究によって完全に否定された。しかし現在でも生殖質という用語は,その種に特有の遺伝物質(遺伝子)の総体,または遺伝資源というような意味で用いられている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「生殖質」の意味・わかりやすい解説

生殖質
せいしょくしつ
germ plasm

生殖細胞に含まれていて,個体発生と受精を通じて次の世代へと順次受継がれる要素。 A.ワイスマンは卵の細胞質を,細胞分化の決定子をもつ生殖質と,体細胞質に分け,生殖質を受けた細胞が生殖細胞となり,世代から世代へと引継がれるという生殖質連続説を唱えて,体質 somaと生殖質を峻別した。なお両生類で将来配偶子となる原始生殖細胞に含まれる特殊なリボ核酸に富む細胞質物質が,卵割前に植物極の皮質下にあり,卵割中に移動してこの細胞に入る。この細胞質物質を特に生殖質と呼ぶ。

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