日本大百科全書(ニッポニカ) 「生物三元論」の意味・わかりやすい解説
生物三元論
せいぶつさんげんろん
生物には植物と動物とがあるというのが、従来の常識的な二元論的生物観である。この生物観は「見かけの自然」から得た古代人の感覚がその背景となっている。生物について多くの知識が蓄えられた現在でも、なおこのような生物観が続いているのは問題であるということを指摘して、人間が生活しているこの自然の真の姿を正しく理解することを訴えるのが「生物三元論」である。
[寺川博典]
生物三元論は菌類から
菌類は昔から下等植物とか隠花植物とかいわれてきたが、これは誤りである。なぜなら、菌類には、それを特徴づける独自の栄養法、体制、生殖法があるからである。この特徴は、太古において地球上に誕生した原始生物群の栄養法を受け継いで進化した結果といえる。その初期の進化中に、原始植物類が、さらには原始動物類が分かれて進化してきた。ここで重要なことは、この三つの生物系統群ができたことによって、共同生活が行われるようになり、地球規模で円滑に物質が循環するという地球生態系が発展したことである。
[寺川博典]
地球生態系の三生物群
生態系は、まず原始海洋中で始まり、やがて生物群が陸上でも繁栄するようになると、現在のような海陸一体となった地球生態系が完成する。生態系では、植物類は無機物から有機物をつくる重要な「生産者」であり、動物類はその有機物を消費する「消費者」として菌類の働きを助け、菌類は有機物の分解を進めて無機物に還元して植物類にバトンタッチする「還元者」としての大役を担っている。こうして地球上の有限の物質は無限に利用されることとなる。たとえば、生物体になくてはならない有機物の素材となる二酸化炭素は、この循環がなければ250~300年で植物類によって使い尽くされてしまう。この三生物群による物質循環は、生物群の生存の基盤といえるものである。
[寺川博典]
菌界の菌類という見方の重要性
植物界と動物界に対する菌界の菌類には、原核菌類および真核菌類という二大生物群がある。ところが、従来から、前者は細菌類、後者は単に菌類とよばれて、細菌類と菌類とは区別されて植物界に含められたり、原核生物界・原生生物界等に分散されたり、さらに一部のもの(変形菌の仲間)は動物界に含められたりした。また、細菌類はバクテリアともいわれるが、実はバクテリアには藍藻(らんそう)類も含まれている。さらに、細菌類や菌類は微生物ともよばれるが、微生物には単細胞的動植物も含まれている。こうした細菌類と菌類の区別や、バクテリア、微生物などというあいまいな呼び方は世界的流行であるが、このような状態からは正しい自然観は得られない。生物三元論的自然観はあらゆる人間活動の背景としてなくてはならないものであり、そのためには、菌界の菌類という見方が確立されて、従来の混乱した菌類観、生物観から脱することが必要であろう。
[寺川博典]