第二次産業部門や第三次産業部門の企業で働いている雇用従業者の意識構造に焦点をあてて、彼らの行動様式、彼らの間のさまざまな人間関係、企業文化、さらに企業を取り巻く各種の社会領域との関連などを研究の対象とする社会学の一部門。
産業社会学は、1920年代にG・E・メーヨーらがアメリカで行ったホーソン実験を通じて、雇用従業者のモラール(志気)や彼らの組織するインフォーマル・グループの重要性に注目し、科学的管理法にかわる理論的枠組みを備えた学問領域として確立した。日本でも、第二次世界大戦後、企業組織内部に形成されるインフォーマル・グループや雇用従業者のモラールをめぐる調査や研究が盛んに行われ、雇用従業者の勤労意欲や企業風土の日本的特質の解明が進められてきた。高度工業化社会へ変貌(へんぼう)を遂げつつある現在、産業社会学が取り組んでいる主要な課題は次のとおりである。
[本間康平]
(1)企業と経営組織に関しては、日本の企業のもつ一種のコミュニティとしての集団特性やそれを支える年功序列制度、終身雇用制度、稟議(りんぎ)制度などの問題が解明されてきたが、現在では、環境の変化に適応できる柔軟で流動的な組織への転換が模索され、管理者に対するリーダーシップ訓練、課制の廃止、プロジェクト・チームの編成などの組織構造の改善や権限委譲の制度化、目標管理制度の導入といった形で、組織の動態化の方策が問われている。
(2)職場の人間関係の問題としては、日本の職場集団における人間関係が、お互いを知り尽くした人間として関係しあうことを前提とした、きわめて複雑な形で展開されていることが明らかにされている。このような人間関係を踏まえた形で、高度工業化の過程で注目されている対応策として打ち出されているのが小集団主義である。小集団主義は集団主義と個人主義の双方を満足させ、両者の調和を図るものとして、ZD運動(無欠点運動)、QC(品質管理)サークル、職務拡大、小集団自主管理などの方策が関心の的になっている。
(3)雇用従業者の生活や意識の実態は、管理される側の当事者の問題として取り上げられるときに、初めて本音の姿がとらえられる。高度工業化の過程での雇用従業者については、彼らのもつ単調感や疎外感とともに、仕事意識の問題として、彼らが、労働の理念を理念として受け止めながら、現実の職場生活のなかでは自律性の契機を追求できない状況に置かれているため、結果として連帯性の契機への傾斜を強めていること、そして、労働における熟練を否定する傾向が避けられない事態を迎えて、協働体制の維持強化を求め、そのなかで自律性の契機を追求しようとしていることに関心が集まっている。
(4)労働組合と労使関係に関しては、企業別労働組合として発展してきた労働運動を前提として、企業別という組織形態を労働組合の本質と照らしてどう評価するかという問題とともに、労働組合の組織活動が逆三角形になり、末端部分の職場に労働組合としての規制力が及んでいない実態が明るみに出されている。そして、このような労働組合の性質上、労使関係はいやおうなく企業の枠内に閉じ込められ、労使間に越えがたい溝が存在するという形の労使関係観は育ちにくい。そのため、パイを大きくしにくくなるにつれて、経営参加その他の労使関係をめぐる重大問題に対する労働組合側の対応が問題にされている。
(5)産業と社会の問題としては、地域社会のレベルでは企業の盛衰がとりもなおさず地域社会の問題として跳ね返ってくる現実を踏まえて、地場産業を抱えた地域社会や近代的な工業都市などの変貌、さらに臨海コンビナートと地域社会の関連が俎上(そじょう)にのせられ、雇用従業者が、労働の場としての企業の活力源として、かつ、生活の場としての地域社会の活力源として、どのように対処するかが関心の的になっている。
[本間康平]
『本間康平他著『産業社会学入門』(有斐閣新書)』▽『尾高邦雄著『産業社会学講義』(1981・岩波書店)』▽『S・R・パーカー他著、寿里茂訳『産業と社会――産業社会学序説』(1973・社会思想社)』
社会学は人間関係やより広い意味での社会関係の質に焦点をおいて,それを規定する諸要因や規則性を追求する学問分野であるといえるが,産業社会学は産業社会に特徴的な諸制度(たとえば経営体や労働組合や労使関係制度),組織のダイナミックス(たとえばリーダーシップ,勤労意欲),人間的諸問題(たとえば人間関係,職業労働における疎外)などを解明し,またそれらの解明を基礎として,社会全体の構造や変動についての傾向性を把握しようとする学問分野である。社会学の専門的一分野としての産業社会学の制度化はまだ比較的新しく,最近の四半世紀の歴史をもつにすぎないが,その〈発達〉は急速である。今日では,大学の研究や教育の一分野として位置づけられ,また,種々の政策に一定の影響力をもつような〈時代の学問〉という性格も少なからずもつにいたっている。その理由には,第1に,産業社会の高度化が進行し,経営体や労働組合や労使関係制度などが,全体社会と人間の運命に重要な意義を担うにいたったという事情,第2に,それらの社会的諸制度が,大規模化し,複雑化して,あらためて意識的な解明の対象として設定することが必要となったという事情,第3に,技術変動が高度化,恒常化し,その社会的影響についての解明が重要となったという事情などがあげられる。産業社会学の形成は,当初,アメリカでの〈産業における人間関係〉の研究の発展(1930年代)によって促進されたが,その後,より広い意味での社会関係の質に関心をもつようになり,労使関係,階層構造,産業文化など多様な側面へとフロントが拡大してきた。
執筆者:岡本 秀昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…産業社会学者。オーストラリアのアデレードに生まれる。…
※「産業社会学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
小麦粉を練って作った生地を、幅3センチ程度に平たくのばし、切らずに長いままゆでた麺。形はきしめんに似る。中国陝西せんせい省の料理。多く、唐辛子などの香辛料が入ったたれと、熱した香味油をからめて食べる。...
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