日本大百科全書(ニッポニカ) 「病弱・身体虚弱教育」の意味・わかりやすい解説
病弱・身体虚弱教育
びょうじゃくしんたいきょじゃくきょういく
慢性疾患または身体虚弱のため、通常の指導では十分な効果をあげることができない幼児・児童・生徒を対象として行われる特別な教育。慢性疾患児に対する教育は病弱教育という。
病弱・身体虚弱教育を行うために特別に設置された教育施設に、特別支援学校(病弱)と病弱・身体虚弱特別支援学級がある。2006年(平成18)現在、全国に特別支援学校は91校(在学者数4190人)、特別支援学級は小学校では669学級(1279人)、中学校では282学級(449人)設置されている。
[中司利一]
沿革
病弱児・身体虚弱児のための特別な教育の歴史は、休暇集落から始まる。休暇集落とは休日や長期休暇を利用して郊外の外気や日光に浴させ、健康の回復を図ることを目ざして行われた教育活動のことで、外国では19世紀中ごろデンマークなどで実施された。施設では1904年、ドイツのベルリン市郊外のシャルロッテンブルクに身体虚弱児を対象として設立された林間学校ワルトシューレWaldschuleが有名である。
日本の休暇集落は明治末期から実施され、1907年(明治40)東京・精華学校小学部児童によって妙義(みょうぎ)山で実施されたものがよく知られている。また林間学校は1917年(大正6)白十字会によって神奈川県茅ヶ崎(ちがさき)に設置された。特別支援学級は、大正末期からしだいに設置されるようになった。現在は、小・中学校のほかに病院内に設置された特別支援学級がある。特別支援学校が日本で発展したのは、第二次世界大戦後である。
[中司利一]
対象
特別支援学校の対象となる者の障害は次のとおりである。
(1)慢性の呼吸器・腎臓・神経・悪性新生物等の疾患状態が持続して、医療または生活規制を必要とする程度のもの、(2)身体虚弱の状態が持続して、生活規制を必要とする程度のもの。これらの程度に達しないが、持続的または間欠的に医療または生活の管理を必要とするものは、特別支援学級、あるいは必要に応じて通級指導教室で通級による指導がなされる。
[中司利一]
指導の重点
特別支援学校における病弱・身体虚弱教育では、一般の教育目標のほかに、病弱や身体虚弱に由来する種々の困難を改善・克服するために必要な知識、技能、態度および習慣を養うことが教育目標とされる。
教育課程は、(1)教科、(2)道徳、(3)総合的な学習の時間、(4)特別活動、(5)病弱・身体虚弱状態の改善・克服などを中心とした自立活動、の5領域によって編成される。病気の種類や性質または健康の程度等によって教育的問題が異なることが多いため、指導にあたっては、ひとりひとりの状態に応じたきめ細かな指導上の配慮を行わなければならない。
指導上の配慮として、以下のことがこころがけられている。
(1)医療との連携を図り、健康状態と回復に必要な生活様式の把握に努めること。
(2)病気や環境の変化による不安など、児童・生徒の心理的問題への理解をもって援助、問題解決にあたること。
(3)学習の遅れや学習の空白を考慮して、児童・生徒ひとりひとりの状態に即した個別の指導計画を作成すること。
(4)指導内容の精選や指導法のくふうを行うこと。
(5)可能な限り、児童・生徒自らが自律的に活動に取り組めるよう、また学校行事等に参加、交流できるよう配慮すること。
病弱・身体虚弱教育では、身体面の指導だけでなく、メンタル面の指導も重要である。
[中司利一]
『船川幡夫編『病弱・虚弱児の理解と指導』(1976・第一法規出版)』▽『久保田勉著『病弱教育の基礎』(1986・学苑社)』▽『村上由則著『慢性疾患児の病状変動と自己管理に関する研究』(1997・風間書房)』▽『佐藤泰正編『特別支援教育概説』(2007・学芸図書)』