東洋医学の病理概念の一つで、うっ滞した血液のことである。"瘀(お)"とは瘀滞(おたい)、つまり、ものが停滞している状態を意味する。瘀血のある患者には次のような症状が現れる。口乾(こうかん)(口が乾燥して水で口をすすぐことを欲するが飲みたくはない状態)、他覚的に腹部の膨満が認められないのに自覚的に腹満を訴える、全身または局所的な熱感などである。さらに、皮膚や粘膜に現れる紫斑(しはん)、青筋、皮膚の甲錯(こうさく)(さめ肌)、舌の辺縁の暗紫色のほか、唇が青くなったり、大便の色が黒くなる、出血しやすいなどの症状も出る。脈は軽く当てただけではわかりにくく、拍動数も少なかったり、一時的に止まったりする場合もある。また、主として下腹部に抵抗と圧痛を訴えることも多い。瘀血によっておこりやすい疾患としては、各種の婦人病、高血圧症、動脈硬化症、脳出血、慢性胃腸病、痔(じ)疾患、皮膚疾患、気管支喘息(ぜんそく)、リウマチ、神経痛、自律神経失調症、神経症、肝臓病など広範囲にわたっている。また、打撲症、むち打ち症などによって瘀血の状態になる場合もある。治療法としては駆瘀血剤が使われる。駆瘀血剤には動物生薬と植物生薬とがあるが、以下生薬名をあげ、括弧(かっこ)内に基源となる動植物名を示す。水蛭(すいてつ)(ヒル類)、(虻)虫(ぼうちゅう)(アブ科の昆虫)、䗪(しゃ)虫(ゴキブリ科の昆虫)、螬(せいそう)(コフキコガネ科の昆虫)などは動物生薬であり、桃仁(とうにん)(モモの種子)、大黄(だいおう)(タデ科のダイオウ)、牡丹皮(ぼたんぴ)(ボタンの根皮)、当帰(とうき)(セリ科のトウキ)、川芎(せんきゅう)(セリ科のセンキュウ)などは植物生薬である。鍼灸(しんきゅう)や刺絡(しらく)(東洋医学的な瀉血(しゃけつ)療法)も瘀血を除去する手段として古くから行われてきた治療法である。
[矢数圭堂]
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