改訂新版 世界大百科事典 「むち打ち症」の意味・わかりやすい解説
むち打ち症 (むちうちしょう)
whiplash injury
むち打ち損傷ともいう。自動車の追突事故などによって起こるもので,背後からの衝撃によって身体が前方に投げ出されたとき,相対的に頭部が後方に残るため,頸部が過度に引き伸ばされて起こる。このときの状態がむちの先がしなう状態に似ていることから名づけられた。医学的には過伸展損傷hyperextension injuryという。むち打ち症は追突事故のほか,急発進,急停車でも起こることがある。
症状は痛み,めまい,だるさなど,さまざまである。痛みは首,胸の上部,ときに上肢へ放散するもので,受傷後よりもむしろ数日後にひどくなることもあり,ときには1年以上も痛みがとれないことがある。痛みのほかは,めまい,眼のかすみ,耳鳴りなどであり,重症の場合は上下肢の麻痺をはじめ,種々の脊髄症状を呈する。治療は,軽症の場合は頸部の包帯固定あるいは頸椎カラー固定を行い,消炎鎮痛薬を服用するが,高度の障害があるときには,3~6週間横臥のうえ,局所を安静にし,その後,頸椎カラー固定を行い,リハビリテーションを行う。ときに頸椎固定手術が必要なことがある。
むち打ち症は前述のように,受傷後1週間くらいたって症状が出てくることもあるので,事故直後にかりに自覚症状がなくても,軽視すべきではない。また,最初の治療を怠ると,症状が慢性化し,年余にわたり不眠やいらいらなど神経症様の症状が続き,治療しにくくなるので,早期に適切な治療を受けることがたいせつである。
執筆者:佐藤 祥之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報