日本大百科全書(ニッポニカ) 「発火器」の意味・わかりやすい解説
発火器
はっかき
火をおこす道具。火の使用が原人の時代にさかのぼることは、北京(ペキン)郊外の周口店遺跡の例から知られているが、積極的に火をつくりだすための道具としての発火器が、いつ、どこで成立したかは明らかでない。しかし、人類の文化の発展にとって、発火器により自由に火をつくる技術を身につけたことの意味は計り知れない。インド洋のアンダマン諸島民は発火法を知らない例外的な民族であった。
近代以前のもっとも基本的かつ普遍的な発火法は、摩擦法と打撃法である。摩擦法は、木、竹などを激しくこすり合わせ、摩擦熱によって生じた火の粉を、乾燥させた植物の髄などの火口(ほくち)に移す方法で、摩擦の方法から大別すれば往復式と回転式がある。往復式には、木片に切った溝に棒の先端を挿し込み、こするもの(溝火切〈鑽(きり)〉)、刻み目のある木片に棒の腹をあてがってこするもの(鋸(のこぎり)火切)がある。回転式では、へこみをつけた台木(火切臼(うす))の上で棒(火切杵(きね))を回転させるが、直接手で錐(きり)をもむように回転させる(揉(もみ)錐)ほか、弓の弦を棒に巻き付け、弓を前後させることによって棒を回転させる法(火切弓)、棒の下部に錘(おもり)をつけ、棒と直角に取り付けた腕木の両端と棒の上端とを紐(ひも)で結んだうえ、腕木を回転させて紐を棒に巻き付け、ついで腕木を上下させて棒を回転させる法(舞錐(まいぎり))がある。打撃法は、燧石(ひうちいし)(フリント)など石英質の石どうし、または石と鋼鉄片ないし黄鉄鉱などを打ち合わせて発する火花を火口に移す方法である。これらの発火法は分布も広く、しばしば両者は併存し、日本でも弥生(やよい)時代には舞錐法の存在が確認され、のちには打撃法が普及した。
特殊な発火法としては圧縮法、光学法がある。圧縮法は、水牛の角(つの)などでできた筒とこれにぴったりはまるピストンがセットになった発火器を用い、ピストンを急速に筒に押し込んだ際、圧縮された空気が発する熱によって、ピストンの先端につけた火口に点火される方法で、東南アジア各地に分布する。光学法は、凸レンズ、凹面鏡などで太陽光を一点に集め、火口に点火する方法で、古代ギリシア、中国などで用いられた。
これらの伝統的発火法は、マッチ、ライターなどの近代的発火具の普及により、日常的には姿を消しつつあるが、儀礼的な発火のためには現在も用いられており、オリンピックの聖火や、日本の神社の神事などにその例をみることができる。
[鹿野勝彦]