直接発電(読み)ちょくせつはつでん(その他表記)direct energy conversion

日本大百科全書(ニッポニカ) 「直接発電」の意味・わかりやすい解説

直接発電
ちょくせつはつでん
direct energy conversion

あるエネルギー形態から回転機の発電機を用いずに、すなわち運動エネルギーを経ないで直接電気エネルギーを取り出す方式をいう。現在の発電方式の主流である発電機を用いる方式は、火力発電では原子力、石炭重油などがもつエネルギーを熱エネルギーとしてタービンの回転に用い、水力発電では高所にある水がもつ位置エネルギーを用いて発電機を回転させるのであるが、直接発電では各種のエネルギーから電気エネルギーへの直接変換が行われる。直接発電は次のようないくつかの方式がある。

(1)太陽電池 半導体のpn接合部(半導体中でp形とn形の領域が接している部分)に光を当て、光起電力効果によりその光エネルギーを直接電流として取り出す。電卓や時計などの電源に古くから実用化されており、21世紀に入ってからは再生可能エネルギーの発電システムとして実用化されている。太陽電池とインバーターパワーコンディショナーとよばれる)とを組み合わせた商用電力系統に連系可能なソーラー発電システムは、家庭用、事業用の分散発電システムとして広く使われている。

(2)燃料電池 水素と酸素を反応させて電力を取り出す。水の電気分解の逆方向の反応を利用し、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。負極(水素極)と正極(酸素極)の間に電解質を挟んだ構造である。燃料電池は電解質の種類によってリン酸形、固体高分子形などに分類されている。自動車電源、家庭用熱電併給装置(コ・ジェネレーション)、携帯機器用電源などの開発が進められ、2000年代以降、実用化されているものもある。

(3)MHD発電 強い磁界をつくり、磁界内に設けた電極間に高温で導電性をもつガスを高速度で走らせるとき、電極間に電磁誘導およびホール効果によって生ずる直流起電力を得て、電気を取り出す。MHD発電は大規模な発電方式の一つとして研究が進められたが、高温の流体に対する機器の耐久性の問題があり研究開発は中断している。

(4)熱電発電 異質の金属または半導体の両端を接合し、両接合点に温度差を与えたとき生ずる電位差ゼーベック効果)を利用する。温度差を直接電力に変換できるので排熱などを利用する開発が行われている。単器では得られる出力が少ないので、集合化し利用する。

(5)振動発電 振動により振動面に発生する圧力を、圧電素子などを用いて電力に直接変換するもの。道路や橋などに設置して、歩行者や車などの振動を利用して発電する。発電量がごくわずかであり実用化に向けて研究開発中である。

[森本雅之]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「直接発電」の意味・わかりやすい解説

直接発電 (ちょくせつはつでん)
direct generation of electricity

機械的回転発電機を介さずに直接熱エネルギーなどから電気エネルギーを得ることを直接発電という。すなわち,通常の火力発電においては,石油,石炭,あるいは天然ガス燃焼によって得られる高温熱エネルギーを,いったんタービンの機械的回転エネルギーに変換し,その後,電気エネルギーへ変換するという過程をとっている。しかし,例えばMHD発電をとり上げてみると,そこではタービンの代りに磁界が加わった発電チャンネルがあって,直接熱エネルギーは電気エネルギーへと変換されるから,これは直接発電の一つとみなされる。直接発電の一つの特徴は,原理的に高熱効率の発電を可能にすることにある。一般に熱効率の上限はカルノー効率で与えられ,高温を用いるほど熱効率が向上する。しかし機械的タービンにおいては,タービン羽根の材料劣化が急速に進み,現在用いられている600℃以上には温度を高められない。ところが,直接発電においては高温作動流体と接触する可動部分が存在せず,この材料問題が存在しないため,より高温の作動温度を設定でき,その結果熱効率の改善が実現されうるのである。

 このような目的で研究されている方式としてはMHD発電のほか,EHD発電(電気流体発電),熱電子発電などがある。ここでEHD発電とは,高温高速の燃焼気体に電荷を与え,それを流れ方向に設置された正負電極の間に通して静電的に発電を行わそうとするもので,electrohydrodynamic generatorの意味である。また熱電子発電とは,上記燃焼気体の代りに,高温に加熱された金属表面から熱電子放出された電子流を用いて同様に静電的に発電を行わそうとするものである。

 直接発電の他の方式として,各種の物質の熱・電気ないし熱・磁気効果を用いるものがあり,その特徴としては小型軽量性があげられる。例えば熱電効果を用いる熱電発電は放射性物質を熱源とし人工衛星用電源として用いられる。このほか,原理的には,誘電体の誘電率とか磁性体の透磁率の温度依存性を利用する熱誘電発電,あるいは熱磁気発電も考え得るが,実用化研究は目下のところ行われていない。より広い意味での直接発電として,機械式発電機を用いないということから太陽電池とか燃料電池などを含めることもある。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「直接発電」の意味・わかりやすい解説

直接発電
ちょくせつはつでん
direct power generation

熱機関と発電機の組合せなどのように機械的動力を経由して電気エネルギーを得るのでなく,熱エネルギーなどを直接電気エネルギーに変えること。電磁流体発電 (MHD発電 ) ,熱電気発電熱電子発電燃料電池などがある。石炭,石油などの化石燃料の減少が予想されているので,注目されている。なお,これら代表的な直接発電方式では,現在のところ発生電力が直流であり,現在の交流方式と結合するには変換装置を必要とする点が大きな欠点ともいえる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「直接発電」の意味・わかりやすい解説

直接発電【ちょくせつはつでん】

熱,光その他のエネルギーを直接電気エネルギーに変換するもので,理論的には効率が高い理想的発電方式である。普通は熱エネルギーを変換する方式をいい,熱電発電熱電子発電MHD発電等があり,いずれも直流電力を発生するが,実用化に至ったものは少なく,まだ効率も低い。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android