内科学 第10版 「睡眠異常」の解説
睡眠異常(発作性神経疾患)
不眠症(insomnia)
定義・概念
睡眠の質や量が十分に得られない状態で,日中の眠気,倦怠感,集中力低下,作業能力低下,居眠りを伴う.
原因・病因
睡眠に対する過度のこだわりをもち,就寝時刻になると緊張して眠れなくなるのが,不眠症の原因として最も多い.睡眠を妨げる疼痛,かゆみ,頻尿,呼吸苦をもたらす疾患,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,レストレスレッグズ症候群,交替制勤務や不適切な生活リズムによる体内時計のずれ,不適切な寝室環境,ストレスや悩み,うつ病などの精神疾患,不眠を生じる薬剤やカフェイン・ニコチンなども不眠症の原因となる.
臨床症状
入眠困難,中途覚醒,早期覚醒,熟眠感の欠如がみられる.高齢者では睡眠は浅くなり,中途覚醒・早期覚醒の訴えが多くなる.
治療
1)生活指導:
不眠症の原因を取り除くのが第一である.規則正しい生活をする,日中適度な運動をする,寝室の環境を改善する,リラックスできるよう工夫するなど睡眠にかかわる生活習慣や環境因子の改善を図る.
2)薬物療法:
抗不安薬やベンゾジアゼピン系睡眠薬が有効である.睡眠薬は半減期により,超短時間作用型,短時間作用型,中間作用型,長時間作用型に分類される.入眠困難に対しては超短時間作用型や短時間作用型を用い,中途覚醒・早期覚醒に対しては中間作用型や長時間作用型を使う.睡眠薬の筋弛緩作用により閉塞型睡眠時無呼吸症候群を悪化させることがある.長時間作用型の睡眠薬では,翌日に眠気・ふらつきなどの持ち越し効果が出現しやすい.高齢者では短時間作用型の薬剤が望ましい.薬物代謝が遅い高齢者では,薬の効果が蓄積する傾向があるので成人の1/2~1/3程度の少量から始める.
(2)
ナルコレプシー(narcolepsy)
定義・概念
覚醒中に突然生じる短時間の耐え難い眠気発作を特徴とする.
原因・病因
覚醒に関係のある脳幹網様体の機能障害がある.家族性発症がみられ,遺伝性素因が注目されている.
疫学
思春期~30歳に発症し,10歳代に発症のピークがある.人口10万につき40人ぐらいの発症をみる.
病理
視床下部で,オレキシン分泌ニューロンの脱落がみられる.
病態生理
REM睡眠障害があり,覚醒状態とREM睡眠が容易に移行する.入眠時にREM睡眠がしばしば出現する.(REM睡眠とは身体は睡眠状態にあるが,急速眼球運動(rapid eye movement:REM)と脳の覚醒が認められる状態.)
臨床症状
睡眠発作,情動性脱力発作,睡眠麻痺,入眠時幻覚が4大症状である.これらはREM睡眠関連症状と考えられている.
1)睡眠発作:
日中,突然に耐え難い眠気に襲われる.数分から15分程度,睡眠に陥る.
2)
情動性脱力発作:
カタプレキシー(cataplexy)ともいう.笑ったときや,びっくりしたときなどに起こる全身の筋緊張低下で,抗重力筋の脱力が起こる.持続は数秒以内,急に膝の力が抜けて床に膝をついたり,頸や顎の力が抜ける.
3)睡眠麻痺:
入眠時および覚醒直後に起こり,開眼して意識はあるのに動こうと努力しても,金縛りになり動けない状態となる.
4)入眠時幻覚:
入眠時および覚醒直前に色彩に富み,鮮明な現実感をもった夢をみる.
検査成績
①覚醒時から15分以内にすぐREM睡眠に移行する脳波所見が特徴である.②髄液オレキシン値低下は特異性の高い検査所見である.③ヒト主要組織適応抗原(human leukocyte antigen:HLA)の型を検査すると,HLA-DR2(DR15)とDOQ1(DQ6
)が陽性である.
診断
睡眠発作を中心とする症状が毎日,3カ月以上続くときはナルコレプシーを疑う.
治療・予防
1)生活指導:
規則正しい日常生活を送り,睡眠不足を避けること,計画的に10~15分の仮眠をとることを指導する.車の運転や危険な作業は避ける.
2)薬物療法:
睡眠発作に塩酸メチルフェニデート(10~60 mg/日)またはモダフィニル(200~300 mg/日)が有効である.情動脱力発作に対しては三環系抗うつ薬が奏効する.
(3)
周期性過眠症(Klein-Levin症候群)
定義・概念
12~20歳の男性に好発,周期的傾眠に引き続く空腹感を特徴とする.
原因・病因
間脳,視床下部の機能障害が一時的に起こると推定されている.
臨床症状
性格変化で始まり,傾眠と睡眠状態が数日~数週間にわたってみられ,トイレ以外はほとんど眠る.目が覚めると病的な空腹感を訴え,むさぼるようにがつがつと食べる.何らかの誘因(発熱,飲酒,その他の心理的・身体的ストレス)の後に過眠期に移行する.過眠期は大別して前駆期,過眠期(狭義),回復期の3期からなる.
1)前駆期:
2~3日にわたる頭重感,倦怠感,性格変化が起こる.
2)過眠期
(狭義)
:
食事と排泄を除いて終日臥床,覚醒させることは可能だが周囲に無関心である.食欲が異常に亢進,しばしば性的に抑制を欠いた行動を示す.
3)回復期:
日中の過眠傾向が次第に改善,午後の覚醒時間が増え,ついには朝から覚醒可能となる.
鑑別診断
視床下部に占拠性病変がないかを頭部CT,MRIで確認する.
経過・予後
予後は良好で成人になると自然治癒する.
治療・予防
炭酸リチウムが有効とされる.発作予防には塩酸アンフェタミンや塩酸メチルフェニデートが有効である.
(4)
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)
中枢性睡眠時無呼吸症候群について説明する(閉塞性睡眠時無呼吸症候群については【⇨7-11-3)】.
定義・概念
原因はさまざまであるが,睡眠時無呼吸症候群のうち5%くらいを占める.
原因・病因
腎障害(代謝性アシドーシス),うっ血性心不全(化学受容器によるフィードバックの遅れ),糖尿病性自律神経障害(化学受容器への神経伝導路の障害),Shy-Drager症候群,延髄障害,Arnold-Chiari症候群(延髄呼吸機能不全),筋萎縮性硬化症,重症筋無力症などが原因となる.
病態生理
呼吸調節に関連した代謝系で動脈血CO2飽和度(PaCO2)低下,動脈血O2飽和度(PaO2)増加,動脈血ガス変化に対する反応性の低下がみられる.
臨床症状
自覚症状として不眠,中途覚醒や睡眠中のあえぎがみられる場合があるが,あまりはっきりした症状がみられない場合も多い.
治療
原因疾患に対する治療を行う.
(5)
レストレスレッグズ症候群(restless legs syndrome)(むずむず脚症候群,下肢静止不能症候群,不穏脚症候群)
定義・概念
下肢に生じる不快な異常感覚に伴って,下肢を動かしたくなる衝動を特徴とする.
分類
原因不明の特発性レストレスレッグズ症候群と,二次性レストレスレッグズ症候群に分類される.
原因・病因
特発性レストレスレッグズ症候群では,しばしば遺伝歴がある.二次性レストレスレッグズ症候群の原因としては,薬剤誘発性,鉄欠乏状態,末期腎不全(透析患者),Parkinson病,妊娠,リウマチ性疾患,糖尿病,ポリニューロパチーがある.
疫学
一般住民での罹患率は欧州での疫学調査では6~12%,日本を含むアジア地域での罹患率は,0.1~4%である.
病態生理
概日リズムと関連があり,症状は夕方から夜にかけて出現することが多い.ドパミン作動性神経の機能障害,中枢内鉄代謝異常,遺伝的背景が関連している.
臨床症状
安静時に強い不快な異常感覚に伴って,下肢を動かしたくなる衝動がある.皮下に虫が這うような感じがあり,重症例では坐位で同一姿勢を長く維持するのが困難になり,睡眠薬抵抗性不眠症の原因になる.就眠時には脚を常に動かしたくなり,もむ,たたく,歩き回るなどの行為がみられる.いったん歩くと少しの時間は不快感覚から解放されるが,静止するとまたすぐに再燃するといったことを繰り返す.
治療
ドパミン作動薬(レボドパ,ドパミンアゴニスト)が有効である.
(6)
REM睡眠行動障害(REM sleep behavior disoroder:RBD)
軽症例では寝言や床の中で四肢の異常運動がみられる程度であるが,重症例では徘徊したり,過激な情動表出や暴力行動がみられる.本症の60%は特発性であるが,Parkinson病,びまん性Lewy小体病などの神経変性疾患の症状としても重要である.
(7)
概日リズム睡眠障害
ジェット時差症候群,交代勤務性睡眠障害,睡眠相後退症候群などがある.
(8)
外在因性睡眠障害
環境因性睡眠障害,アルコール依存性睡眠障害,薬物起因性睡眠障害などがある.
(9)身体疾患・精神疾患と関連する睡眠障害
大脳変性疾患,認知症,精神病,気分障害,不安障害に睡眠障害がみられる.[黒岩義之]
■文献
大川匡子,内山 真:睡眠障害.ダイナミック神経診断学(柴崎浩編),pp303-312,西村書店,新潟,2001.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報