矮化剤(読み)わいかざい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「矮化剤」の意味・わかりやすい解説

矮化剤
わいかざい

植物の成長抑制剤の一種。植物の栄養成長を抑えて、むやみに大きくしないために使う薬剤を成長抑制剤という。MH(maleic hydrazide)など成長点における細胞分裂を阻害する物質を用いる場合もあるが、このような生理活性を実用化している場面は、タバコ栽培における腋芽(えきが)伸長の防止など特殊な場合だけである。

 矮化剤といわれるものは抑制剤の一種であるが、植物の細胞分裂を阻害せずに分裂で新生された細胞の伸長を抑制する生理活性をもつ化学物質である。

 植物ホルモンとして知られるジベレリン類は、植物体内で生合成(内生)され、細胞の伸長を促進する働きをするので草丈を徒長させるが、体内でこれに拮抗(きっこう)する生理作用を現すホルモンとしてエチレンがある。エチレンは体内のメチオニンから生成され、細胞の伸長を抑制するなどの生理作用を現す。

 矮化剤として人為的に植物へ施用するものは、植物の生理作用になんらかの影響を与えて、エチレンの生成を促進する引き金となるなどの抗ジベレリン作用を発揮する薬剤である。

 実用化されている主要な矮化剤は次のとおりである。ダミノジット(「Bナイン」)はキクの矮化、ブドウの巨峰(品種名)のつるぼけ(徒長して着果不良)防止などに使用する。クロルメチコート(「サイコセル」「CCC」)はポインセチアなど花木類の矮化などに根部から吸収させて使用する。ムギの倒伏防止にも使用される。ジゲラックナトリウム(「アトリナール」)は頂芽優勢の抑制作用を応用し、生け垣や庭園樹の成長抑制による刈り込み回数の省略や、アザレアなどの着花促進に使用する。イナベンフィド(「セリタード」)は水稲の倒伏防止に、パクロブトラ(「ボンサイ」は花卉(かき)、花木用、「パウンティ」は西洋シバの草丈抑制用、「スマレックス」は水稲の倒伏防止用)に使用されている。ウニコナゾール(「スミセブン」)は花卉の矮化用に使用されている。そのほか「スリートーン」などの矮化剤がある。散布によりエチレンを徐々に発生する「エスレル」も矮化の目的に使われることがある。

[村田道雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「矮化剤」の意味・わかりやすい解説

矮化剤 (わいかざい)
growth retardant

植物生長調節剤の一種で,植物生長抑制剤とも呼ばれる。この種の薬剤は,植物に対して致死的な効果を与える毒物と異なり,主として植物の茎の伸長を抑制し,葉や花などの他の器官には影響を与えないものが多い。AMO1618,CCC,ホスホン,B995(商品名B-ナイン),アンシミドール,ウニコナゾール(商品名スミセブン),イナベンフィド(商品名セリタード),パクロブトラゾール(商品名バウンティ,ボンザイ),メフルイジド(商品名エンバーグ),プロヘキサジオン(Ca塩,商品名ビビフルフロアゾル)などがこの系列に属する化合物である。



 これらの多くはジベレリンの生合成を阻害し,植物体中の内生ジベレリンのレベルを低下させ,このため茎の伸長が抑制されることが証明されている。しかしB995の場合にはジベレリンの生合成は阻害されずに矮化が誘起されるので,矮化剤の作用機構は,ジベレリンの生合成阻害以外のものが関与する可能性も考えられる。CCCなどは,ヨーロッパにおける麦類の徒長防止に実用化されており,日本では稲作におけるイネの徒長抑制による倒伏防止への実用薬剤の開発が望まれている。アンシミドール,B995などは,花卉(かき)栽培における矮化剤として実用化され,広く利用されている。
植物生長調節剤
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「矮化剤」の意味・わかりやすい解説

矮化剤
わいかざい
growth retardant

植物の生長を防ぐ目的で合成された植物生長調整剤の一種。植物生長抑制剤ともいう。細胞の伸長促進にかかわる植物ホルモンの一種ジベレリンの生合成を阻害して,茎の伸長を抑制し分枝の発生を促すもので,葉や花には影響を与えないものが多い。おもに鉢物,切り花の草姿の改善に使われる。アンシミドール,SADH,ホスキン,CCC,パクロブトラゾール (ボンザイフロアブル) ,AMO1618などが開発・市販されている。このうちアンシミドールが最も多くの植物に有効で,土壌灌注と植物体散布の両方に使用できる。

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百科事典マイペディア 「矮化剤」の意味・わかりやすい解説

矮化剤【わいかざい】

植物生長抑制剤とも。植物の生長を抑制する薬剤。多くはジベレリンの生合成系を阻害する。
→関連項目植物生長調節剤

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世界大百科事典(旧版)内の矮化剤の言及

【植物生長調節剤】より

…マレイン酸ヒドラジド剤(商品名MH‐K)はタバコの腋芽(えきが)発生抑制剤,タマネギ,ジャガイモの発芽抑制剤として使用されている。植物の生長抑制剤(矮化剤ともよぶ)には,コハク酸‐2,2‐ジメチルヒドラジド(一般名ダミノシッド,商品名B‐ナイン),α‐シクロプロピル‐α‐(4‐メトキシフェニル)‐5‐ピリミジンメタノール(一般名アンシミドール,商品名スリトーン),トリメチルクロロエチルアンモニウムクロリド(CCCともよばれ,一般名クロルメコート,商品名サイコセル),ウニコナゾール(商品名スミセブン),イナベンフィド(商品名セリタード),パクロブトラゾール(商品名バウンティ,ボンザイ),メフルイジド(商品名エンバーグ),プロヘキサジオン(Ca塩,商品名ビビフルフロアブル)などが知られる。この薬剤で植物を処理すると,生長だけが抑制され,葉や花などの大きさはあまり変化せず,いわゆる矮化がひきおこされる。…

※「矮化剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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